writer : maki

『黒子のバスケ』脅迫事件の商品撤去対応。「表現の自由」と「安全重視」の間で揺れる。

漫画『黒子のバスケ』をめぐる脅迫事件で脅迫状が届いたレンタル大手・TSUTAYA(ツタヤ)が、“Xデー”とされる11月4日を前に関連商品を全店舗の店頭から撤去した。他にも脅迫状が届いたことで商品を撤去する事例が相次いだが、一方で撤去する対応をとらなかった場合もある。「表現の自由」と「安全重視」のどちらを優先するかを悩んだ末の決断だが、世間はその対応をどうとらえているのだろうか。

『黒子のバスケ』脅迫事件は、昨年10月12日に作者が在籍していた上智大学の体育館で「今をときめくマンガ家が憎い」という文面とともに、硫化水素入りの容器が見つかったことから始まった。その後マスコミや企業に脅迫状が届いて騒動となったが、今年の春には動きが収まっていた。しかし、10月中旬に「関連商品を撤去しないと危害を加える」という主旨の脅迫文が各方面に届き、コンビニやレンタルショップが関連商品を撤去する事態となった。

昨年、致死量を超える硫化水素溶液が持ち込まれた上智大学では今年の学園祭「ソフィア祭」の最終日、11月4日が“Xデー”とされたことから警備を強化して来場者の手荷物検査などを行っている。

TSUTAYAに10月15日に届いた脅迫状には「11月3日までに商品を撤去しなければ、客の生命、身体に危害を及ぼす」という内容が書かれており、“Xデー”の前日が期限となっていた。TSUTAYAは10月29日に、『黒子のバスケ』に関連する商品を、全店舗の店頭から撤去することを決定して11月3日までに撤去を完了したのだ。

Yahoo!ニュースでは、「TSUTAYAの『黒子のバスケ』撤去は妥当?」という意識調査を実施中だ。(実施期間:2013年10月31日~2013年11月10日)。途中経過では「撤去は妥当ではない」という回答が圧倒的に多い。

■TSUTAYAの『黒子のバスケ』撤去は妥当?
・「撤去は妥当ではない」:66.4%(10,116票)
・「撤去はやむをえない」:22.9%(3,491票)
・「どちらともいえない/わからない」:10.7%(1,621票)
(Yahoo!ニュース 意識調査調べ 対象は15,228人。11月8日17時時点)

回答者によるコメントでは、「撤去は脅迫に屈する形なので妥当ではない。しかし緊急避難であり決して不当ではない」や「撤去は妥当。店は客を守る義務がある。表現言論の自由をどうこうでなく、人の命を守る行為。ツタヤを私は支持します」というような内容が目立った。“表現の自由”と“安全重視”のどちらを優先させるかが、回答の判断理由となっているようだ。

さらに「過剰な感じもあるし、脅迫されたという事実は隠せないし…」、「犯罪者の要求を受けいれることは、さらにエスカレートさせた要求をしてくることにならないか」という意見もあり、回答者もどう判断すべきか迷う複雑な問題である。

幸いにも“Xデー”は何ごとも起きなかった。TSUTAYAをはじめ、富山県の書店チェーン・文苑堂書店など商品撤去の対応をとった店舗と、ジュンク堂書店や紀伊國屋書店、三省堂書店など販売を継続した店舗があった。だが、どの店舗でも「安全重視」と「表現の自由」の間で判断に迷った末に決断したのだろう。

ただし今後も脅迫が続く可能性を考えると、商品撤去する店舗が増えれば『黒子のバスケ』ファンだけでなく消費者への影響も大きくなってくる。一部のファンから出ている不満が大きく膨らむことになりかねない。

なにより、脅迫内容が実行される前に犯人を捕まえて世間の不安を解消してもらいたい。今回は富山県の書店チェーンにも脅迫状が届いたことで、県警が威力業務妨害容疑に当たる可能性もあるとみて捜査するという。事件解決に向けて進展を期待したい。
(TechinsightJapan編集部 真紀和泉)