writer : techinsight

【名盤クロニクル】ギター音楽の新しい地平 バルエコ/C・コリア、K・ジャレット、P・サイモンを弾く

(ジャンル:クラシック)

ヴァイオリンやチェロ、フルートなどの新人ソリストがCDデビューすると、そのほとんどに「ラフマニノフのヴォカリーズ」と「シューベルト&カッチーニのアヴェ・マリア」が収録されているという状況になっている。リスナー次元で分かるような個性的なアプローチを許さない曲だから、どうしても似たり寄ったりの内容になる。
その点、クラシックギター音楽の世界では、あらゆるジャンルの曲に対してギタートランスクリプション(編曲)が行われている。そして近年、正統派ジャズファンからほとんどスルーされている曲が個性的な編曲で演奏されている。

チック・コリアの組曲「チルドレンズ・ソング」とキース・ジャレットの「ケルン・コンサート」は、正統派ジャズファンからはあまり好まれない曲だが、クラシックとジャズの両方に親しめるリスナーにとっては魅惑的な作品である。

どちらも基本はピアノ曲であり、即興演奏とされるケルン・コンサートも採譜はされているので、ギターへの編曲は十分可能な作品である。

今回紹介するアルバムは、マニュエル・バルエコによる、チック・コリアの「チルドレンズ・ソング」全20曲と同じくチックのサムタイム・アゴー」、そしてキース・ジャレットのケルン・コンサートから、アンコールピースとして演奏された「ケルン・コンサート・パート2-c」である。

これにポール・サイモンの曲やルー・ハリソンの曲を加えた選曲となっており、企画としてはやや中途半端な感もあるが、「チルドレンズ・ソング」の全曲ギター演奏は評価されて良いだろう。

「ケルン・コンサート・パート2-c」は、ラブリーな小品として親しまれている曲であるが、同じくラブリーな小品である「マイ・ソング」をパット・メセニーがアコースティックギターで演奏を残しており、この2曲をセットにすれば、より楽しいものになりそうだ。

日本の代表的なギタリスト、村治佳織も最新作で演奏しており、ギターレパートリーとしての将来性に期待が持てる。

ジャズとクラシックとのジャンル交流において、ジャズサイドからのアプローチはあまり良い結果を生まず、クラシックサイドからの新レパートリー発掘というアプローチによって輝きを生む傾向にあるようだ。

本作は、ギター音楽の新しい地平を開くものとして、注目に値する作品である。

(収録曲)
1. 旧友(ポール・サイモン)
2. チルドレンズ・ソング(チック・コリア)
3. サムタイム・アゴー(同)
4. ケルン・コンサート・パート2-c(キース・ジャレット)
5. セレナーデ(ルー・ハリソン)
6. ミュージック・フォー・ビル&ミー(同)
7. イシャルトゥムのソナタ(同)
8. エア(同)
9. ラウンド(同)
10. ブックエントのテーマ(ポール・サイモン)
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)