(ジャンル:クラシック)
日本の作曲家、吉松隆氏がELPの名作「タルカス」を管弦楽編曲したことで、ロック筋とクラシック筋の双方から評判になった。
一方、それよりはるか以前にオーケストラ化が実現しているマイク・オールドフィールドの名作「チューブラー・ベルズ」はあまり良い評判を聞かない。
この違いを考察するのにふさわしい名盤が、同じ「チューブラー・ベルズ」をギター2本によるアンサンブルに編曲したDuo Sonareのバージョンである。
ほとんどのロックミュージックは数名(おおむね4~5人)の奏者で演奏されることを前提に作曲されており、これはクラシックサイドの分類に従えば、室内楽になる。
室内楽であるロックをオーケストラ化するには、管弦楽法によほどの才覚を発揮する作曲家が手がけないと、「つまらないクラシック」と「退屈なロック」の中間のような作品になってしまうのである。
ムソルグスキーの「展覧会の絵」と「はげ山の一夜」が、定番の楽曲として親しまれているのは、それぞれラヴェルとリムスキー・コルサコフという、管弦楽法の天才が編曲を手がけたからに他ならない。
ロックのクラシックアレンジには、室内楽的なアプローチをしたものに成功例が多い。
山下和仁のビートルズ作品集のギター版や、バラネスク・カルテットのクラフトワーク作品集、クロノス・カルテットによる「紫のけむり」の演奏が好例だ。
そして今回紹介するDuo Sonareもギター2本という室内楽アプローチにより、色彩感に溢れたロックミュージックである「チューブラー・ベルズ」の編曲に成功している。
原曲自体が、躍動感や興奮を伴って聴くというよりは、音の綾なりに身を浸す感じで鑑賞する作品なので、ギター2本という編成は非常にゆったりとした寛ぎを与えてくれる。
原曲では前半(パート1)で、ベースのリフに乗ってさまざまな楽器の紹介をする音楽的シーンがあるが、Duo Sonareのバージョンでは、一人がベースラインを弾き、もう一人がオクターブを変えたり、トレモロやストロークなどによって変化を付けるあたりが聴きどころの一つと言えるだろう。
チューブラー・ベルズの比較鑑賞としては、作曲者マイク・オールドフィールドによる1973年のオリジナル版と2003年の再演版、ライブアルバム「Exposed」におけるライブバージョン、そして本作Duo Sonareのギター2本版というラインナップが良いと思われる。
(収録曲)
1. Tubular Bells: Part I
2. Tubular Bells: Part II
3. The Sailor’s Hornpipe
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)