（ジャンル：ジャズ）

シネマジャズと言えば、マイルス・デイヴィスの「死刑台のエレベーター」とアート・ブレイキーの「危険な関係」（曲はデューク・ジョーダン）が代表的であるが、この両作ともに参加しているのが、テナー奏者のバルネ・ウィランだ。
本作はバルネ・ウィランとマル・ウォルドロンが組んで録音した映画音楽特集のアルバムである。

バルネ・ウィランとマル・ウォルドロン。この二人は演奏テクニックに関していえば、決して上手とは言えない。もっとはっきり言えば「下手」である。

しかし、楽器を自在にハンドルするプレイヤーが必ずしも素晴らしいとは限らないのとは反対に、この二人は稚拙なテクニックを逆に生かしたムードメーカーとして非常に魅力的だ。

ここで演奏される映画音楽は、「死刑台のエレベーター」「危険な関係のブルース」のような、ジャズの都会的なセンスを生かした曲もあれば、「シェルブールの雨傘」「男と女」のような、通常イージーリスニング的に処理される曲もあるが、どちらも名匠、マル・ウォルドロンの重く木訥なピアノサウンドに、ムード一発のウィランのサックスがからむ、ある種異様な音楽になっている。

面白いのは、ラストの2曲「枯葉」と「クワイエット・テンプル」である。「枯葉」はもともとのオリジナルであるシャンソンの流儀に則りヴァースから演奏し始めるところが、いかにもフランス人の演奏と言える。

最後の「クワイエット・テンプル」は、マル・ウォルドロンのソロピアノで名高い「オール・アローン」である。

映画「マンハッタンの哀愁」のために書かれた曲なので、一応映画音楽なのであるが、かの名盤「オール・アローン」の沈思的なムードが存分に発揮される。

これが「死刑台のエレベーター」や「危険な関係のブルース」のムードと実に良く調和し、締めくくりにふさわしい演奏となっている。

決して、一流の名演とは言い難いが、ジャズの名曲集としての意味合いがあるとともに、甘いムードの曲も、この二人にかかるとダークで重い曲に変貌するということが確認できるユニークなアルバムである。

（収録曲）
1. 男と女
2. 死刑台のエレベーター
3. シェルブールの雨傘
4. 危険な関係のブルース
5. 黒いオルフェ
6. 殺られるのテーマ
7. 枯葉
8. クワイエット・テンプル
（TechinsightJapan編集部　真田裕一）