(ジャンル:ジャズ)
ギル・エヴァンスと言えば、ジャズ史を語るときに必ず登場する重要人物である。それでは市井のジャズファンに「ギル・エヴァンスをどう思うか」と尋ねると、「尊敬はしている」あるいは「マイルス・デイヴィスの良きサポーター」といった返答になることが多いものの、「大好きだ」とか「最高だ」とかいう声が聞かれることはあまり無い。まして、いわゆる愛聴盤の中にギルのアルバムが入ることは甚だ稀である。しかし、あえて「ジャズアレンジの快楽」という言葉をキーワードに、今般、2011年4月20日に日本版が再発される「ニュー・ボトル・オールド・ワイン」について紹介してみたい。
ギル・エヴァンスが、尊敬はされつつもあまり聴かれない理由は2つある。ひとつは白人であるということ。もうひとつはアレンジャー(編曲家)であるということであろう。
日本だけの状況かもしれないが、最小限の約束ごとだけを決めて、あとはインスピレーションと黒人ブルースフィーリングの赴くまま、アドリブの応酬をして名演が生まれるという、一種の「プロレス的展開」のジャズが最上とされるようである。
そんな中、西欧クラシック近代音楽のセンスを持つ白人がオーケストラアレンジを精緻に書いて、自分のオーケストラ/コンボで演奏するというのは、「反則技の取締にうるさくやたら口を出したがるプロレスのレフリー」のごとく、ミュージシャンのアドリブのジャマをしていると見られがちなのであろう。
ギル・エヴァンスの音楽は、ジャズというよりも、広範な意味でのモダンミュージックとして聴かれるべきものであり、かつ、自在な楽器編成による音のカラーリングの妙技を堪能することで、その魅力が分かるのである。
今回紹介するアルバム「ニュー・ボトル・オールド・ワイン」の収録曲の中で最大の注目は、「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」であろう。
この曲は、同じくギルがアレンジのアイディアを出したとされる、マイルス・デイヴィスの演奏が決定的名演とされているが、その初演から2年後1958年のギル自身による演奏とアレンジである。
こちらのアレンジは、アフターアワー的な倦怠感のあるピアノがテーマを奏で、ホーンセクションが時にはアンサンブルで、時にはソロ・オブリガードで絡んでくる玄妙な演奏となっている。
また、ギルの世界からは最も遠いと思われる、アフロ・キューバン・ジャズの名曲「マンテカ!」も面白い。
さすがにこの曲では、ギルの個性を持ってしても原曲のイメージを変えることはできなかったようで、非常にモダンではあるが、ジャズ的なスイング感に満ちた演奏となっている。
録音年である1958年の時点で、「オールド・ワイン」と形容される、スイング/ビバップ時代のスタンダードを、モダンなアレンジで聴かせる傑作である。
(収録曲)
1. セントルイス・ブルース
2. キング・ポーター・ストンプ
3. ウィロー・トゥリー
4. ストラッティン・ウィズ・サム・バーベキュー
5. レスター・リープス・イン
6. ラウンド・アバウト・ミッドナイト
7. マンテカ!
8. バード・フェザーズ
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)