(ジャンル:ジャズ)
ジャズにおける1970年代後半という時代を象徴する名盤であるが、生粋のジャズファンにはこの時代が大嫌いという人が少なくない。
それに反比例して大衆的人気を獲得したのが、この日野皓正の「シティ・コネクション」や渡辺貞夫の「モーニング・アイランド」そしてグローヴァー・ワシントン.Jrの「ワインライト」などである。どれもすでに発表から30年を経過しているので、ちょっとした時代の考察とジャズの批評空間という見地から、本作を紹介してみたい。
1970年代後半、長期化・泥沼化していたベトナム戦争が終結し、中国では毛沢東の死とともに文化大革命も終わった。国内的には荒れた学生運動は一部の残党を残して解体してしまっていた。
これに呼応して音楽も「もう過激にトンがるのはやめて明るくライトに行きませんか?」という風潮になっていたようである。
それ以前からジャズはロックとの習合・エレクトリック化という道を歩んでいたが、これにソウルやポップとの習合が加わり、いわゆる「フュージョン全盛」の時代となる。
一方、現在のようなネット上での多様な批評空間が形成されていない時代であるから、権威あるジャズ雑誌や情報交換の場であったジャズ喫茶では、一斉にこの風潮に反発。
「フュージョンはジャズではない。あれはオンナコドモの聴くイージーリスニングだ」と大ブーイングが起こったため、一般リスナーは聴いてよいものやら、ダメなものやらわからなくなっていたというのが現状だ。
こうした事柄はすべて過去のものとなっており、本作「シティ・コネクション」は、現在では「スムース・ジャズ」あるいは「アシッド・ジャズ」の一環として、古くはマーヴィン・ゲイ、新しくはジャミロクワイなどと一緒に聴くと、実に楽しい音楽空間が出来上がる。
ヴォーカル入りナンバーも取り上げられている一方で、1曲目の「ヒノズ・レゲエ」のような当時の流行ビートの採用、そして最終曲「ブルー・スマイルズ」のような、哀切なバラードもあり、バラエティに富んだ傑作と言えるだろう。
余談ではあるが、この時代の大衆的流行はディスコであり、「ディスコで流して踊ってもらわないと金にならない」という切迫した事情により、多くのミュージシャンは続々とぎこちないディスコナンバーをやり始めたという歴史もあり、大衆音楽研究の上でも面白い時代である。
(収録曲)
1. ヒノズ・レゲエ
2. ウェイキング・ハート
3. シティ・コネクション
4. センド・ミー・ユア・フィーリング
5. ハイ・タイド~マンハッタン・エクスタシー
6. サンバ・デ・ラ・クルズ
7. ブルー・スマイルズ(ブルー・ミッチェルに捧ぐ)
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)