writer : techinsight

【名盤クロニクル】日本企画盤も悪くない フレディ・ハバード「バラの刺青」

ジャズの世界では、日本企画盤というジャンルのアルバムが存在する。つまり日本のレコード会社が「こういう内容と曲目でお願いする」という感じで、外国のジャズミュージシャンにオファーを出して録音してもらうというものだ。
当然、それは日本のジャズファンのニーズにマッチした内容になるので、一般的には人気盤となるが、コアなファンはそうした風潮を嫌う傾向がある。しかし、虚心に聴けば魅力的なアルバムばかりなのだ。そうしたアルバムの一つとして、フレディ・ハバードの1983年録音「バラの刺青」を紹介したい。

フレディ・ハバードの「バラの刺青」は、全編ミュートトランペットでスタンダードチューンを演奏したという作品だ。

そして、ミュートトランペットと言えば、帝王マイルス・デイヴィスの得意とするところであるが、このアルバムは、マイルス・デイヴィスが50年代に残してきた栄光のサウンドを、フレディに再現してもらったというものである。

80年代前半と言えば、マイルス・デイヴィスは6年間の隠退生活から復帰し、エレクトリックサウンド全開の音楽をやっていた時期である。

よって、マイルスが今更こうしたミュートトランペットによるスタンダード演奏などをやるはずもない。

そこで「もう一度、マイルスのあの音を聴きたい」という日本のジャズファンのラブコールに応えた形でフレディがやってしまったというわけだ。

こう書くと、安易な企画のように思えるが、内容は極上である。ほの暗いバーでウイスキーグラスを傾けながら一人静かにバラードに浸るという風情のアルバムである。

標題曲「バラの刺青」の美しい語り口をはじめとして、どの曲も珠玉の演奏と呼ぶに相応しい。

さすがに帝王マイルスの往年のレパートリーをそのまま演奏するのははばかれたようで、微妙にハズした選曲になっているのも良い。

80年代前半は、まだジャズが同時代音楽として聴かれていたこともあり、こうしたある意味で後ろ向きの企画は、当時のコアなジャズファンからはバカにされることもあったが、今や過去も現在も関係なく良い音楽を選べる時代、もっと評価されて良いアルバムと言えるだろう。
(収録曲)
1. 星に願いを
2. プア・バタフライ
3. マイ・ロマンス
4. エンブレイサブル・ユー
5. バラの刺青
6. タイム・アフター・タイム
7. マイ・フーリッシュ・ハート
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)