writer : techinsight

【名盤クロニクル】人の褌で相撲をとると光る キャノンボール・アダレイ「ノウ・ホワット・アイ・ミーン」

(ジャンル:ジャズ)

キャノンボール・アダレイは、こと日本においては気の毒なアルトサックス奏者である。アメリカではファンキージャズの第一人者としてヒットを飛ばしているが、こうした傾向のサウンドは日本のジャズファンのあまり好むところではなく、人気作は事実上マイルス・デイヴィスのリーダー作になる「サムシン・エルス」と、今回紹介する、ビル・エヴァンスの影響が大きい「ノウ・ホワット・アイ・ミーン」である。

本作は、ピアノのビル・エヴァンスが持つモダンなリリシズムに乗って、キャノンボール・アダレイの軽妙な語り口のアルトサックスが歌い、モダン・ジャズ・カルテット(MJQ)からお越しのリズム隊、パーシー・ヒースとコニー・ケイが豪快にスイングするという構成だ。

セッションとしてもかなり異色のものであり、エヴァンスとキャノンボールは、マイルス・デイヴィスのセクステットにおける同僚であるから、顔なじみであるとはいえ、御大マイルスが睨みを利かせていないので、お互いに異質な個性を丸出しにしている。

そこへ、また異質なスイングを聴かせるリズム隊が、MJQのムードを持ち込むという、実に不思議かつ危ういバランスの上で繰り広げられる名演となっている。

ジャズ入門盤として聴く場合には、1曲目に収録されたエヴァンス畢生の名曲「ワルツ・フォー・デビイ」で、同曲のカルテット・バージョンが聴けるというメリットが大きいであろう。

いわゆるバラードとして位置づけられる同曲の、リズミックでスインギーな演奏が堪能できる。

ちなみに、同曲のもうひとつの別バージョンは、スウェーデンの歌姫モニカ・ゼタールンド名義の歌入りバージョンである。

キャノンボール・アダレイの日本での不遇話を続けると、ヒット曲「マーシー・マーシー・マーシー」は、ジョー・ザヴィヌルの作品。人気曲「ワーク・ソング」は、弟であるコルネット奏者ナット・アダレイの作品である。

こうした事情も加えると、ジャズ史に名をとどめる巨人でありながら、今ひとつ尊敬を集めておらず、サイドで光る名脇役というイメージであって、それはおそらくさほど間違ってはいないだろう。

(収録曲)
1. ワルツ・フォー・デビイ
2. グッドバイ
3. フー・ケアーズ? (テイク5)
4. ヴェニス
5. トイ
6. エルザ
7. ナンシー
8. ノウ・ホワット・アイ・ミーン (リテイク7)
9. フー・ケアーズ? (テイク4)
10. ノウ・ホワット・アイ・ミーン (テイク12)
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)