(ジャンル:ロック)
おおむね90年代以降、音楽の聴き方は大きく変わっている。新しいもの、進歩的に見えるものへのニーズがなくなり、昨日の作品も30年前の作品も区別がなくなったということである。
それを象徴する作品はたくさんあるが、その中の1枚としてレッチリことレッド・ホット・チリ・ペッパーズの1991年作品「Blood Sugar Sex Magik」を紹介する。
レッチリの音楽性はアルバムによって趣が異なっているが、ひとことで表現すれば「なんでもあり」のロックと言えるだろう。
とは言っても、プログレのように多種多様でもなければ、ジョン・ゾーンや坂本龍一のように「なんでも”やる”」ではなく、バンドとしての統一感の中で、自由になんでも取り入れているという音楽だ。
本作に関しては、ロック、ファンク、ラップ/ヒップホップなどが妙なる調和の中で演奏されている。
ポップミュージックの要素を決めるのは、ビート感覚であるが、これは肉体的なものであるため、ムリをして慣れないビートを叩くとノれない。
しかし、本作の1曲目を聴けばわかるとおり、レッチリのビートは、実にさまざまのビート感覚が、理屈ではなく、カラダのレベルで表現されているのである。
多くの人が指摘することだが、ベーシストのフリーの技量が極めて高く、バンドの音楽を特徴付けている。
世界中のベーシストを探しても、フリーのようにスラッピングもこなす一方で、重く沈み込むようなサウンドも披露できるミュージシャンはなかなか見あたらない。
また、ギターのさまざまなフレージングやリフの使い方、ドラムが叩き出す、特にバスドラの多彩なビート、そしてアツい歌声から冷めたライミングまで、さまざまな表情を見せるヴォーカルなど、本当に「多彩」という言葉は、レッチリのためにあるように思えてくる。
現在、音楽の最も熱心なリスナーである40代50代の男性は、彼らが青春期を過ごした1970年代に聴いた音楽に留まり続ける傾向があり、一方でパンクをリアルタイムで経験しているから、音楽は今でも「進歩」するべきと思い込みがちである。
しかし、レッチリの音楽はそうした役に立たない「進歩」とは無縁のあっけらかんとした楽しさ、グルーヴに満ちている。
音楽の原初的な楽しさを十分に満喫させてくれるレッチリの「Blood Sugar Sex Magik」は、ぜひあらゆる世代に聴いてほしい作品である。
(収録曲)
1. パワー・オブ・イコーリティ
2. イフ・ユー・ハフ・トゥ・アスク
3. ブレーキング・ザ・ガール
4. ファンキー・モンクス
5. サック・マイ・キッス
6. アイ・クド・ハヴ・ライド
7. メロウシップ・スリンキー・イン・Bメジャー
8. ライチャス&ウィッキド
9. ギヴ・イット・アウェイ
10. ブラッド・シュガー・セックス・マジック
11. アンダー・ザ・ブリッジ
12. ネイキッド・イン・ザ・レイン
13. アパッチ・ローズ・ピーコック
14. グリーティング・ソング
15. マイ・ラヴリー・マン
16. サー・サイコ・セクシー
17. ゼイアー・レッド・ホット
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)