writer : techinsight

【名盤クロニクル】アレンジの妙と人選の妙が奇跡的に融合した名盤コンプリート E・ドルフィー&B・リトル「アット・ザ・ファイブスポット」

(ジャンル:ジャズ)

ジャズは即興こそすべてで、即興が炸裂した演奏がジャズ名盤だと思われているフシがある。
しかし、実際に長らく世代を継いで聴かれている名盤の多くは、即興よりもむしろアレンジが素晴らしかったり、メンバーの人選が絶妙であるもののほうが多い。
このアレンジの素晴らしさとメンバーの人選の両方を兼ね備えた奇跡的名盤が、エリック・ドルフィーとブッカー・リトルの双頭コンボによる、ファイブスポットの名演である。

まず、メンバーの人選から見ると、双頭コンボということでフロントの二人が互いに触発するだけではなく、どちらかの個性だけが突出してしまわないよう、うまくバランスが取れている点が挙げられる。

ドルフィーの演奏、特にバス・クラリネットは、しばしば”グロテスク”と紙一重の美を表現しているのだが、うねうねと流れる音色はしばしばリスナーを不安にさせることがある。

しかし、ここではトランペットとともに演奏されるので、お互いの個性が相互に調和しているのが非常に素晴らしい。

これにマル・ウォルドロンの中音域を主体とした呪術的とも言えるフレーズが繰り出され、加えて、演奏進行とともにテンポがだんだん速くなってしまうマルのクセが、うまく生かされている。

そして、しばしば「手数が多すぎる」として嫌われることもある、エド・ブラックウェルの、頻繁にテンポやリズムパターンを変化させるドラミングも素晴らしい。

1曲20分近い長時間の演奏を、ダレること無く聴かせてしまっているのは、ブラックウェルの功績によるところが大きい。

そして、アレンジ(綿密に譜面に書かれたもの以外に、どういうフレーズをどこで出すかという打ち合わせも含む)の素晴らしさは、必殺の名曲「ファイアー・ワルツ」を聴くだけでわかる。

ビートを裏返したタイミングで入る「合いの手」や、マルのピアノソロをもり立てる変幻自在のドラミングなど、聴きどころが豊富である。

よく知られていることだが、ファイブスポットの録音は、「アット・ザ・ファイブ・スポットVOL1」「同 VOL2」そして「エリック・ドルフィー・メモリアル・アルバム」という3枚のアルバムに分散収録されている。

このライブ録音こそコンプリートで聴きたいところである。幸いにして、今ではiTunesなどの音楽プレイヤーで、プレイリストを作ってコンプリートコレクションとして楽しむことができる。

必ずしもオリジナルの曲順に合わせる必要はなく、レコードプロデューサーになったつもりで、どういう曲順のリストにするか考えるのも、今風の音楽の楽しみ方であると言える。

(収録曲)

(アット・ザ・ファイブ・スポット VOL1)
1. ファイアー・ワルツ
2. ビー・ヴァンプ
3. ザ・プロフェット

(アット・ザ・ファイブ・スポット VOL2)
1. アグレッション
2. ライク・サムワン・イン・ラヴ

(メモリアル・アルバム)
1. ナンバー・エイト
2. ブッカーズ・ワルツ
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)