writer : techinsight

【名画クロニクル】サービス精神あふれる“ありがたい”映画 石井輝男監督「地獄」

キング・オブ・カルトこと石井輝男監督の作品は、お腹いっぱいになるくらいの観客サービスにあふれている。日本人の大好きな勧善懲悪が大炸裂で、シネマシアターを出た後も爽やかだ。
そんな映画のひとつが、1999年作品「地獄」である。
なぜ地獄ネタの映画が心地よいかといえば、平成日本を震撼させた事件の極悪犯人たちが、「この世の刑罰」の後、地獄に落ちてさらに大刑罰を受けるという話だからである。

「地獄」のオリジナルは、中川信夫監督により1960年に公開されているが、このバージョンはなんとも後味の悪い、やりきれない地獄物語だった。

しかし、約40年後の石井輝男バージョンでは、地下鉄サリン事件の犯人である教団の幹部及び彼らを擁護した弁護士や物書きまでまとめて地獄で成敗するという痛快ストーリーに生まれ変わった。

日本では、どんな極悪犯罪を犯しても、刑に服してあの世へ行けば、罪業は消滅し、成仏したものとされる。死者に鞭を打つのは最大の非礼とされる。

しかし、中には例外もあって、被害者遺族の身になってみれば、こんな極悪犯人が極刑だけで済んでよいのかと首をかしげざるを得ない犯人もいるのである。

主人公となる18歳のリカは、宇宙真理教という新興宗教団体に加入しているが、この団体が犯した恐るべき犯罪を知らない。そこに道で出会った老女に導かれるまま、地獄の業鏡を通して、真実を知る。

そこでは、詭弁を弄してこの教団を擁護した悪徳弁護士を「舌抜きの刑」に、文筆で擁護した学者を「腕引っこ抜きの刑」に、教団幹部はサリン面を生焼きの刑、そして教団教祖は…と、実に残酷と言えば残酷だが、コミカルかつシュールに地獄の刑罰は進行する。

これだけでも、実に分かりやすい勧善懲悪ストーリーでありがたいところに、地獄と言えば霊界の一部らしいので、霊界といえばこの人、丹波哲郎が唐突に「ポルノ時代劇 忘八武士道」(これも石井監督/丹波哲郎主演の名作)姿で登場して、日本映画ファンには実にありがたい。

石井輝男監督のサービス精神があふれるあまり、だんだん演出までワケのわからない展開となっていき、豪快ハダカ女子祭りまでやるに及んでは、もう本当に観客のためにここまでやっていただいて…とかたじけない気持ちになる素晴らしい作品である。

本作は、2009年に再DVD化が果たされ、現在容易に入手可能である。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)