(ジャンル:ポップ/テクノ)
Yellow Magic Orchestra(YMO)のポピュラーな名盤といえば、2作目の「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」が筆頭であろう。
ヒット曲「テクノポリス」「ライディーン」を含むこのアルバムは70年代後半を代表する日本のポップアルバムである。
この当時はシンセサイザーという楽器の物珍しさがウケていたとも言え、いわゆる音楽玄人筋からの評判は最悪であった。
しかし、日本のロックシーンの重鎮3人が集結した頭脳集団YMOが、その真価を世界に問うた名盤が1981年の作品「テクノデリック」である。
80年代のサウンドを代表するテクノロジーのひとつが「サンプリング」である。
これは現代音楽で古くから実践されてきた「ミュージック・コンクレート」からの系譜でもあり、当時は未発達だったサンプラーの積極的な使用を行い、環境雑音や人間の会話音声などを音楽として使用している。
また、ビートはガムランやミニマル・ミュージックからの影響も窺え、当時のポップミュージックの水準からは傑出していたと言えるだろう。
はっきり言って、聴きやすい音楽とは言い難い。ハヤリモノが好きな人々は、YMOのことなどすでに忘れていたが、一方でミュージシャン筋からの評価は非常に高く、聖典とまで称揚される内容だ。
シンセサイザーは、どんな面白い音を出していても、そのうち耳が馴染めば飽きてしまう。
そこでさまざまな現実音をサンプリングして、ビートとして用いたり、アクセントとして用いることで、テクノと呼ばれる音楽を活性化されていった。
80年代は、音楽テクノロジーが飛躍的に発達し、ポップミュージックがどんどん洗練されていった時代である。
また、キーボード奏者にとっても、アナログからデジタルへの転換期に当たり、全面デジタルに移行した人もいれば、アナログに固執する人もいたが、やがてデジタル楽器が宿命的に持つ、音の陳腐化をどう解決するかが大きな課題となり、90年代以降は共存という形を取ることになる。
現在、YMOは日本電子音楽史にも登場する伝説のユニットとして語り継がれているが、彼らを正当に評価したのは、実は同時代を生きた人ではなく、かなり下の世代がYMOの偉業を「発見」したのである。
これはビートルズについても同じことが言え、現役時代のビートルズは、ごく一部の音楽通を除けば、若い女性のアイドルバンドとしか見なされていなかった。
本当に真摯にビートルズを聴き、素晴らしさを発見していった世代は、ビートルズ解散後にビートルズを聴き始めたもっと下の世代なのである。
YMOの「テクノデリック」も、そうした名盤として世に語り継がれて行くであろう。
(収録曲)
1. ピュア・ジャム~ジャム
2. NEUE TANZ~新舞踊
3. ステアーズ~階段
4. SEOUL MUSIC~京城音楽
5. ライト・イン・ダークネス~灯
6. TAISO~体操
7. グラデイテッド・グレイ~灰色(グレイ)の段階
8. KEY~手掛かり
9. プロローグ~前奏
10. エピローグ~後奏
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)