writer : techinsight

【名画クロニクル】男に都合の良い恋愛映画 成瀬巳喜男「浮雲」と北野武「Dolls」

女性にウケそうな恋愛映画なら、たくさんある。別れたりくっついたり、取ったり取られたりというストーリーか、さもなければ「タイタニック」や「ゴースト/ニューヨークの幻」のように、ゲップが出るくらい男性に「守ってもらえる」ものが良いだろう。
だが少ないながら、男性にとって理想的とも言える恋愛映画も時にはある。成瀬巳喜男監督の1955年作品「浮雲」と北野武監督の2002年作品「Dolls」である。

困ったことに、この2作品は男性にとっての理想の恋愛を描いているので、必然的に女性に評判が悪い。

「浮雲」は当時のキネマ旬報で第一位を取った作品で、現在でも成瀬監督の代表作の一つであり、日本映画ベスト5を選定すると、かなりの確率でエントリーする作品だ。

しかし、もし選定委員の半数以上が女性であったら、かなり違った評価になるに違いない。

「浮雲」も「Dolls」も根底に流れる恋愛観には共通点がある。

男のだらしなさ、いい加減さ、そのくせ体面だけはつけたがる男の格好悪さと後ろめたさを全て許し、受け入れてどこまでもついてきてくれる女性と生涯を歩みたいという願望である。

ただし、いわゆるドン・ファン的な男なのではない。ごく平凡な男であって、基本的に誠実で純愛だけは貫いているところが、男の恋愛なのである。

林芙美子原作の「浮雲」では、主人公の男は妻がいながら愛人を囲い、その愛人の元から姿を消して、別の女と一緒に住んでいるという、とんでもない男である。

「Dolls」では、好きな女を捨てて社長令嬢と結婚した末に、その元恋人を自殺未遂に追いやった男が、彼女と自分を赤い紐で結んで、どこまでも歩いていくというストーリーである。

しかし、どちらの男も純愛なのである。

こんな目に遭わされた女性はたまったものではない。だから鑑賞している女性はヒロインに感情移入することが難しい。

一方で、特に中年以降の男性がこれらの映画を見たら、うっとりすることは間違いないだろう。

北野武監督の「Dolls」のほうは、どこまでも歩いていく二人に、日本の四季の風景が映し出されるのだが、この色彩の美しさは目を見張るほどである。

日本の古い流行歌に「君は心の妻だから」という歌があるが、これらの映画も同様で、何も言わずに黙ってついてきてくれる心の妻を持てるのが、特に年配の男性にとって理想の恋愛だと言えるだろう。

男性の恋愛風景を知りたいという女性がいたら、ぜひこの2作品を鑑賞することをオススメしたい。もっとも若い世代の男性は違った恋愛風景を持っているので、中年男性と恋愛中の女性には参考になりそうだ。

なかなか結婚話が進まないと思っていたら、「心の妻」にされていたということのないよう、自衛のためにも有効だと思われるからである。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)