writer : techinsight

【名画クロニクル】「死刑台のエレベーター」。リメイク版とオリジナル版を見較べる。

ルイ・マル監督の1958年作品「死刑台のエレベーター」は、フランスシネマの傑作であり、マイルス・デイビスが担当した音楽は、シネマジャズの金字塔と称えられる至高の名作である。そして、舞台は50年代のパリという、それ自体が絵になる舞台に、スリリングなサスペンスストーリー。

この傑作の日本版リメイクに気鋭の監督、緒方明監督が挑み、公開された。

オリジナルの「死刑台のエレベーター」からは、50年以上の歳月が流れているが、50年代のシャンゼリゼと同じくらいサスペンスの舞台に相応しいのは、やはり横浜であろう。

完全犯罪計画の舞台が歌舞伎町や新橋だったら、場末感が漂う上にシャレにもならない。

この作品の最大の関心事は、オリジナル映画でのヒロイン、ジャンヌ・モローの圧倒的な美人ぶりと、徹底した「仏頂面」演技に、主演の吉瀬美智子がどこまで肉薄できるかである。

ジャンヌ・モローは単に仏頂面をしっぱなしなのではない、「動揺」、「焦り」、「困惑」などの心理描写をほとんど顔だけで演技しているのである。

そして、もうひとつは音楽の付け方である。この映画はセリフが少ない分、音楽でストーリーを語っている。

マイルス・デイビスの唯一無比のハードボイルドなトランペット・プレイをマネしようとするミュージシャンは存在するはずがないので、どういうアプローチをしているかも気になるところだ。

さて、そんなリメイク版「死刑台のエレベーター」であるが、カドカワ・プレゼンツの作品であるからして、角川映画の伝統である、どこかヌルくて憎めない和製ギャング映画に仕上げたようだ。

角川映画は、かつて80年代に日本で人気の高いジャズナンバー「レフト・アローン」を使った、ジャズ&ギャング映画「キャバレー」を発表したが、今回も、ジャズとの関連の深い映画ということで、お家芸なのであろう。

ただし、音楽では到底オリジナル版の完成度にかなうはずもないので、無難なサウンドをつけていたのは大変良かった。

映画の構成もオリジナル版へのリスペクトが十分なされており、基本的なコンテも構図もオリジナルとほとんど同じである。

2つの殺人事件とその成り行きが同時進行するこの映画は、サスペンスとしても非常に面白く、横浜のベイサイドの光景が、無国籍感をかもしており、原作を知らない人でも十分に楽しめるだろう。

過剰な演出を避けるヨーロッパ映画の流儀をほぼ踏襲した演技を俳優に求めた結果、時として、台詞棒読みに近い部分もあったが、そうしたダメだしもしながら楽しめる映画となっている。

なお、この映画はヒロインの顔のアップで始まり、ラストシーンもヒロインの顔のアップで終わる。

モノクロオリジナル映画のジャンヌ・モローは、とても絵になっていたが、リメイク版はカラーの高解像度で、大スクリーンでのアップである。
思わずヒロイン吉瀬美智子のホクロの数を数えてしまったことを、ひそかに反省した記者であった。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)