(ジャンル:J-POP)
2010年いっぱいをもって無期限休養に入る宇多田ヒカルの入魂の名盤である。デビュー作が衝撃作であるとしたら、この早熟の天才が10年でたどりついた円熟の境地が、この「HEART STATION」である。
音楽の世界では、しばしば「凡人の努力よりも天才の遊びのほうが素晴らしい」という現象が起きる。
数多ある切な系ポップや、歌謡ラップとは似ているようで、はるかに次元の異なる緻密なポップセンスと、常人にはマネのできない言葉の遊び・ライミングが、直截なメッセージよりもはるかに心を打つ。
1曲目の「Fight The Blues」で「笑う門には福来たる」「鳴くまで待とうホトトギス」といったことわざをサラリと歌って、メッセージ性の強い歌に仕上げてしまう凄さにいきなり圧倒されてしまう。
切な系バラードの、2曲目「HEART STATION」の風格も素晴らしく、6曲目「Kiss & Cry」での奔流する感性をそのまま歌に詰め込んだライミングも凄い。
11曲目「ぼくはくま」と12曲目「虹色バス」のほのぼの感はとても微笑ましく、ともすれば切なすぎる雰囲気になりがちなアルバムに、彩りを添えている。
十年余の活動をいったん終わらせて、「人間力」を高めると宣言した宇多田であるが、タイミング的にも絶妙だったと言えるだろう。
現在、レコード業界は、ターゲットを若者から中高年に移しつつある。
80年代以前から活躍する御大アーティストが、今後数年にわたって停滞したJ-POP界の地ならし作業を行うと思われるので、それが終わった頃に、人間力を磨いた宇多田Version2として復活してくれることを期待したい。
(収録曲)
1. Fight The Blues
2. HEART STATION
3. Beautiful World
4. Flavor Of Life -Ballad Version-
5. Stay Gold
6. Kiss & Cry
7. Gentle Beast Interlude
8. Celebrate
9. Prisoner Of Love
10. テイク 5
11. ぼくはくま
12. 虹色バス
13. Flavor Of Life(Bonus Track)
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)