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【名盤クロニクル】野卑な演奏が感動を呼ぶ 伊福部昭「シンフォニア・タプカーラ」ほか

(画像提供:Amazon.co.jp)

(ジャンル:クラシック)

日本作曲界の重鎮として、黛敏郎、芥川也寸志、石井眞木らの日本を代表する作曲家を輩出して、この上ない尊敬と賞賛を受けてきた伊福部昭の米寿を祝うコンサートのライブ録音である。
ここでは伊福部昭の作品3曲と、弟子の作曲家が師の米寿を祝うために作曲した作品4曲が収録されているのだが、中でも代表曲のひとつ「シンフォニア・タプカーラ」の演奏が非常に素晴らしい。

日本人作曲家の作品には、邦楽器とオーケストラのために作曲されたものが少なくない。

東洋と西洋の邂逅でもあり、日本人のアイデンティティの表現でもあったわけだが、そこには意外なほど「日本的感性」はあまり存在しない。

逆に伊福部昭の作風に見られる、西洋楽器を主体として、そこに民族音階を多用した音楽に、日本人の魂を感じる。

さて、「シンフォニア・タプカーラ」は、アイヌの祝祭舞踊にインスピレーションを得て作曲された3楽章の交響曲であり、北海道の雄大な大地を思わせる緩徐楽章を挟んで、両端楽章で熱狂的かつ土俗的な音響が鳴り響く。

この作品の演奏には、「音楽的」に優れた演奏よりも、あまり上手でないオーケストラが野卑な音響で熱狂的に演奏したときに、その魅力が最大限に発揮される。

このライブアルバムにおける演奏は、アマチュアでありながら伊福部作品には精通している新交響楽団を、伊福部の門下生、石井眞木が指揮したものだ。

終楽章で聴かれる高揚感と、なりふり構わず突進する迫力は、他の音源を圧倒する素晴らしさである。

伊福部自身も語っていたように、彼の音楽が若い世代に支持されるのは、リズムを強調する突進型の音楽がロック世代と共感するものがあるからであろう。

できるだけ大音量で堪能して欲しい名演奏である。

なお、門下生が作曲した祝賀曲は、伊福部本人の作品とは異なり、洗練された作風で違った魅力を見せてくれる。聴きくらべてみると非常に面白いだろう。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)