writer : techinsight

【名盤クロニクル】HMV渋谷閉店によせて ピチカート・ファイヴ「オーヴァードーズ」

(画像提供:Amazon.co.jp)

(ジャンル:J-POP)

90年代初頭に音楽文化の発信基地であったHMV渋谷が閉店した。音楽が若者の文化であり、ファッションであり、流行であり、そしてコミュニケーションの手段であった時代の終焉を象徴するものとして、大きく報道された。

今回は、いわゆる「渋谷系」として一世を風靡した90年代を代表するバンド「ピチカート・ファイヴ」の1994年の作品「オーヴァードーズ」を紹介したい。

ピチカート・ファイヴは、キーマンであり楽曲提供者でもある小西康陽の音楽世界の一側面である。

あくまでも一側面であるというのが、小西の凄いところで、テクノやハウスなどのエレクトロニクスな世界から、夏木マリとのコラボで聴かれるシャンソン・ノワールや、ヴァリエテ・フランセ(フレンチポップ)的なサウンドまで、いわゆる「洋楽系」音楽のシンクタンクのような存在であった。

そしてもうひとつは、3代目ヴォーカリストのミス・ピチカート・ファイヴこと野宮真貴の抜群にキレイで明るい発声、そしてライブで披露するさまざまな衣装替えなど、視覚的にも音楽的にも、エンターテイメント性とファッション性が際立っていた。

あまりにも才能とアイディアがありすぎる一方で、制作する楽曲には意図的に手を抜いたものも多く、その危ういバランスの中で音楽活動を行っていた。

その中でも、今回紹介する「オーヴァードーズ」は、彼らの代表曲となる楽曲も多く、あまり手を抜かずに丁寧に作り込んだ力作である。

短いイントロに続いて飛び出す「エアプレイン」、このローファイなビートこそ渋谷系のひとつのスタイルとも言えるだろう。

ジャジーなアレンジで聴かせる7曲目「イフ・アイ・ワー・ア・グルーピー」はキュートな名作。

数多くのバージョンを生み出した名曲の9曲目「東京は夜の七時」は、ハウス風アレンジで聴かせる。

13曲目「陽のあたる大通り」や5曲目「ハッピー・サッド」も、気持ちを上向かせる効果のある良い楽曲だ。

いわゆる「渋谷系」は、日本のポップのクォリティ向上に大いに貢献したが、その後関西系R&Bや宇多田ヒカル、椎名林檎などの登場によって頂点に達したと言ってもよいだろう。

その後は、携帯・ネット文化の普及に伴い、「音楽を通して人と仲良くなる」「音楽で流行を感じる」という習慣が消滅し、J-POPは一転して歌謡曲的な方向に回帰しつつある。

同時に音楽ダウンロードの普及などが相まって、現在のCD不況につながっていくわけだが、もう一度、かつてのシーンを振り返って、新たな音楽の発見につなげていくのも良いのではないだろうか。

(収録曲)
1. オーヴァーチュア
2. エアプレイン
3. 自由の女神
4. レディメイドFM
5. ハッピー・サッド
6. スーパースター
7. イフ・アイ・ワー・ア・グルーピー
8. ショッピング・バッグ
9. 東京は夜の七時
10. ヒッピー・デイ
11. 世界中でいちばんきれいな女の子
12. クエスチョンズ
13. 陽のあたる大通り
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)