(ジャンル:ジャズ)
現在、ジャズ初心者に「ジョン・コルトレーンを聴いてみたいんですけど、何がいいですかぁ」と問われたら、まず即答で「バラード」を薦める。それ以外のアルバムを薦める人は、よほどの偏屈者である。
しかし、かつてコルトレーンと言えば、好き嫌いに関係なく「全部聴くべきもの」であり、各々のアルバムについて一家言を持っているのが当然な時代があった。
従って名作を1枚挙げるというのは本来不可能なのであるが、あえて今回はアトランティックに残したスパニッシュモード全開の力作「オレ!」を取り上げる。
コルトレーンのアルバムの中で、特に素晴らしいのは共演者に恵まれた作品である。
初心者向けとして挙げた「バラード」とセットで聴かれる「ウィズ・ジョニー・ハートマン」や、御大「デューク・エリントン」との競演アルバム。そして、後期コルトレーンにおけるファラオ・サンダースというセカンドサックス奏者を入れた演奏、さらにライブ版も含めた奇才エリック・ドルフィーの参加アルバムである。
今回紹介する「オレ!」は、ドルフィーのフルート、フレディ・ハバードのトランペット、二人のベース奏者に、マッコイ・タイナーのピアノ、エルヴィン・ジョーンズのドラムスという布陣である。
2ベースによるスパニッシュモードを基調にした異様なムードのイントロから不安気な和声が鳴り響き、先陣を切ってコルトレーンが託宣のようなテーマメロディーを語り込むように吹き鳴らす。
その後、すぐにエリック・ドルフィーの見事なフルートソロに移行する。コルトレーンの提示したテーマのムードを引き継いだ素晴らしいソロを吹いたあと、ハバードの登場となる。ハバードのトランペットソロもドルフィーの紡いだムードを引き継ぐ秀逸な演奏だ。
ピアノの不安に満ちたソロの後、さらに不安感を煽るような2ベースのアルコソロに移る。全曲に横溢する不安感が頂点に達したとき、御大コルトレーンが義太夫語りのようにソロを繰り広げる。
LP時代にA面全部を費やした長尺にしてテンションの高い音楽である。
旧LPのB面に収められた2曲+ボーナストラック1曲は、ややリラックスしたフツーのジャズ的な演奏だが、ここでもドルフィーやハバードらの共演者の演奏が光っており、その中にコルトレーンも飛び込んでいくことで、バリエーションに富んだ演奏になっている。
コルトレーンの歴史は、レーベル別に武者修行中の「プレスティッジ時代」、大きく飛躍の「アトランティック時代」そして神がかりの「インパルス時代」に分けられる。今回紹介の「オレ!」はアトランティック時代になる。
アトランティック時代には、名盤の誉れが高い「ジャイアント・ステップス」を始めとして、素晴らしい作品群が存在する。とかくインパルス時代に比べて軽視されがちな、アトランティック時代のコルトレーンは、もっと聴かれても良いであろう。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)