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(ジャンル:J-POP)
平原綾香は、メジャーデビューがクラシックのカバー(ホルストの「惑星」から「Jupiter」)であった。クラシックのカバーそれ自体は珍しいことではなく、J-POPのクリシェ(似たようなメロディーや曲調)から逃れるための手段として効果的である。
その後、オリジナル曲集はもとより昭和歌謡/ニューミュージックカバー、ジャズのカバーなどを並行して行ってきたが、やはり評判がよいのはクラシックカバーである。今回最新作の「my Classics 2」を聴いて、彼女の驚くべき才能に圧倒されるとともに、今後の展開も楽しみであるため、名盤ということで紹介させていただく。
クラシックカバー集の第1集である前作「my Classics!」は、それまで散発的に歌ってきた曲の寄せ集め的印象があって、しかも「亡き王女のためのパヴァーヌ」や「モルダウ」のような、かなり無理した楽曲もあったため、「柳の下の二匹目のドジョウ」を狙っているようにも思えた。
しかし、今回の第2集はひと味違っていた。アレンジャー側もかなり力を込めたようで、曲ごとのバリエーションが豊かである。
最大の懸念だったのが、アランフェス協奏曲のカバーである。
この曲はどうアレンジしても、陰鬱になるか下品になるかのいずれかであるという困った曲である。しかし、平原綾香は、主旋律をスキャットで歌った後、ジャズ・ピアニスト、チック・コリアの名作「スペイン」のヴォーカリゼーションカバーという荒技に出て、難なくこなしているところが素晴らしい。
ベートーヴェンの「第9」のカバーである「JOYFUL, JOYFUL」は、ゴスペルアレンジで処理。旋律線の細かいバッハのカンタータのカバー「Sleepers, Wake!」もスマートにこなしている。
どんな路線であれ、何年も続けると煮詰まってくるものだが、平原綾香の場合は、オリジナルも歌えるし、サックスも吹けるという強みがある。(ライブではサックスも披露する。)
サックスだけのアルバムを制作しても、その筋のファンには受けるだろうし、ヴァイオリニストの宮本笑里のように、クラシック名曲と並行して、日本の現代作曲家に作品を委嘱してもよいだろう。
J-POPには、現在、2つの呪縛があると言われる。ひとつは「過去音源の呪縛」、もうひとつは「カラオケの呪縛」である。過去の名作を超えることは非常に難しく、かつ、カラオケで歌ってもらわないと収入にはなかなか結びつかないものなのだ。
音楽産業が縮小していく中、本当に素晴らしいアーティストには、大衆に媚びず、そして大衆から離れず、独自の道を歩んでほしいものだ。
今後の平原綾香に期待が高まる次第である。
(収録曲)
1. セレナーデ (アカペラ) チャイコフスキー / 弦楽セレナーデ
2. Sleepers, Wake! J.S.バッハ / カンタータ第140番
3. 威風堂々 エルガー / 威風堂々
4. my love ヘンデル / 私を泣かせてください
5. JOYFUL, JOYFUL ベートーヴェン / 交響曲第9番「合唱」
6. adagio ラフマニノフ / 交響曲第2番 第3楽章
7. ソルヴェイグの歌 グリーグ / ペール・ギュント組曲より「ソルヴェイグの歌」
8. アランフェス協奏曲~Spain ロドリーゴ / アランフェス協奏曲 第2楽章
9. CARMEN ~Je t’aime!~ ビゼー / カルメンより「ハバネラ」
10. mama’s lullaby ブラームス / 子守唄
11. Ave Maria! ~シューベルト~ シューベルト / アヴェ・マリア
12. ケロパック チャイコフスキー / くるみ割り人形より「トレパック」
13. Sailing my life with 藤澤ノリマサ ベートーヴェン / ピアノソナタ「悲愴」Bonus Track
14. Love Never Dies アンドリュー・ロイド・ウェバー feat. 平原綾香 Bonus Track A.ロイド・ウェバー / オペラ座の怪人2「Love Never Dies」日本語ヴァージョン
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)