writer : techinsight

【名盤クロニクル】"1970"年の空気 遠藤賢司「満足できるかな」

(画像提供:Amazon.co.jp)

(ジャンル:フォーク)

今年は1970年から起算して40年になる。その翌年1971年から1972年にかけて発表された日本のフォークアルバムはいろいろな意味で興味深い。1970年という年の挫折とその後の若者の生き方を表現したものが多いからだ。
今回はフォークの代表曲とされる、遠藤賢司の「カレーライス」が収録されたセカンドアルバム「満足できるかな」を紹介する。

おそらく、現在の若者に遠藤賢司の「カレーライス」を聴かせたら、「どうしてカレーを食べるだけなのにこんなに寂しい歌なの?」と不思議がるのではないだろうか。

遠藤の「カレーライス」や井上陽水の「傘がない」、小椋桂の「モク拾いは海へ」などの名曲は、1970年前後の出来事と時代の空気を知らないと理解困難な歌である。

前年の1969年に東大安田講堂攻防戦が学生の敗北に終わり、1970年には日米安全保障条約反対運動も1960年のときほどではないにせよ挫折して、いわゆる「シラケ気分」が横溢する。

学生は運動から多くは撤収すると同時に、一部は先鋭化していき、よど号ハイジャック事件や浅間山荘事件などの陰惨な事件となっていく。

同時に、ミュージシャンとリスナーが「自分の音楽がフォークであるかロックであるか」というのは、運動に対する姿勢表明の一環として大変な議論のタネであった。

遠藤賢司の「満足できるかな」は、そうした時代の空気をパッケージした作品である。

音楽史的には、その後、日本のロックの黎明期を迎える一方で、叙情フォークからニューミュージックへ流れる系譜を生み出し、多様な展開を見せていくが、それは遠藤よりも若干後の世代の仕事である。

いわゆる団塊世代は、こうした時代の空気を後世に語り継ぐ気が無いようで、むしろ恥ずかしいこととして忘れ去ろうとする人が多い。

しかし、「ロックかフォークか」という議論や、学生運動のその後の展開を知ることは戦後史理解のためにも意義あることであり、時代の空気をパッケージングしたフォーク名盤は貴重な存在であると思われるので、今回紹介させていただいた。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)