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あらゆる端末からネットワーク経由で音響処理が可能に ヤマハの「クラウド型VST」

ヤマハは、従来専用のワークステーションで処理していたレコーディング音源の音程補正やエフェクト処理などを、CPUパワーの低い事務用端末からでもネットワーク経由で行えるクラウド型音響処理システムを開発した。
これまで、業務用として高価な機材を要していた作業が、アマチュア・ミュージシャン/アマチュア・エンジニアにでもリーズナブルに行える可能性が広がりそうだ。

今回開発した『クラウド型VST』は、ヤマハが楽器や音響機器開発の経験から得た技術を活かし、高い処理能力を必要とするエフェクターなどの高度な音声処理をサーバー上の機能として実装することにより、ネットワークを介して簡単に利用できるようにする技術である。

この技術により、プロのエンジニアやクリエイターが専用の環境で行っていた音の処理を、誰でも簡単に利用できるようになる。また、高度な計算処理はサーバー上で行われるため、コンピューターだけでなく、処理能力が限られている携帯端末などからも利用できるようになる。

スタインバーグ社が開発した「VST」とは、以前ではハードウェアを使用するしかなかったシンセサイザー、エフェクター、ミキサーをソフトウェア化してコンピューターの CPU (ネイティブ処理) で再現し、それらをコンピューター内で接続させる技術のことである。

現在では多くの音楽制作ソフトウェアが対応しており、さまざまなソフトウェアシンセサイザーが追加用ソフトウエア「VSTプラグイン」としてリリースされている。「VST」は、一台のコンピューター内で音楽制作ソフトウェアにエフェクターなどを追加して使うことを想定していた。

今回、開発された『クラウド型VST』は、こうした追加機能をネットワークにあるコンピューター(サーバー)上に実装することで、「VSTプラグイン」を使うために要求されていた計算能力、記憶容量、場所の制限などの各種制約から解放し、新しい音声処理や音楽制作の環境を実現することを目指している。

初音ミクで音楽制作の敷居が下がり、ミクの歌う名曲がどんどん生まれていることに続いて、アマチュアバンドが自分たちのギグの録音音源を補正して、ライブアルバムとしてリリースできる可能性も出てきた。

音楽業界のCD不況が深刻化する一方で、真に音楽を愛するリスナーやクリエイター達にとっては、ますます豊かな環境が開けてきていると言えよう。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)