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(ジャンル:ジャズ)
日本人若手アルト奏者のホープ、矢野沙織のウィズ・ストリングスアルバムにして、全編ビリー・ホリデイ・ナンバーの演奏という、非常に日本人好みのする名演である。
「ストリングスものは好かん」というジャズファンも多いが、このアルバムは椎名林檎とのコラボでも有名な斉藤ネコのアレンジに、矢野沙織のやや荒削りながら、丁寧な歌い口でぐいぐい聴かせる作品である。
ストリングスアレンジは、かなり控えめでうまくソリストを引き立てることに成功している。ハープやオルガンの導入も効果的だ。
そして矢野沙織のソロパートは、ワンフレーズごとに考え抜いた音を繰り出しており、彼女の言いたいことは十分に伝わってくるのだが、あと一歩のところで表現し尽くせていないもどかしさがある。
ベテラン奏者であれば、ファンからのダメ出しがあるところだが、彼女はなにしろ若い。荒削りさも魅力のひとつにしてしまっているところが、凄いところである。
さらに凄いことに、日本のジャズファンなら知らぬ者はいないであろう名曲「レフト・アローン」にも臆することなくチャレンジしている。
この曲はマル・ウォルドロンとジャッキー・マクリーンの演奏以外は断じて認められていないナンバーなのだが、そうした掟のようなものなど「アタシそんなの知らなーい」とばかりに堂々と吹いてみせる。
こうした作品は、古いジャズ喫茶文化の洗礼を受けていない、新しいジャズファンにこそアピールする曲集と言えるだろう。
伝統を尊重しながら、その墨守に回らず、新しい音楽世界を創造している、矢野沙織とアレンジャー斉藤ネコのコラボによる力作である。
(収録曲)
1. Don’t explain
2. Yesterdays
3. Lover Man
4. Everything happens to me
5. Night & Day
6. Summertime
7. Gloomy Sunday
8. Strange Fruit
9. Left Alone
10. Lover Come Back To Me
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)