writer : techinsight

【名盤クロニクル】崇高な愛の歌 オフコース「OVER」

(画像提供:Amazon.co.jp)

(ジャンル:J-POP)

1990年代に大隆盛を迎えたJ-POPだが、現在の中高生がこれらの音楽を聴くと、洋楽に聴こえるようだ。つまり日本語で歌う洋楽なのである。
J-POPの昨今の売上げ不振は、音楽そのものが若い世代にとってのマストアイテムではなくなったことや、サマーフェスを意識したノリノリ系の音楽への食傷などが原因と思われるが、今、改めて音楽のすばらしさを再認識するために聴いてほしいアルバムが、オフコースの1981年の傑作「OVER」である。

オフコースの現役活動時には、1970年代のフォーク/ニューミュージックに属する一グループと見なされてきたが、現在の視点から振り返ると、むしろ時代を超越したオリジナルなポップグループであったことがわかる。メロディーラインの美しさに加えて、歌詞の独自性がオフコースの特徴だ。

フォークにせよ、ニューミュージックにせよ、本来なら詩とは呼べないような具体的な状況や情景を歌うのがひとつの個性になっていたのに対して、オフコースの歌詞は活動を重ねるにつれて、どんどん抽象化されていき、もはや特定の情景や恋愛の事情などを超越した、崇高な愛の歌になっていった。

オリジナルメンバーであった鈴木康博の脱退を強く意識した曲が並んでいるが、歌詞の中に出てくる「僕」「あなた」は、小田和正と鈴木康博のことであってもよいし、リスナーが好きな人に訴えたいメッセージとして聴いてもよいし、自分の具体的な過去の恋愛のファイリングであってもよい。「OVER」は、こうした「愛」そのものを力強く歌ったオフコースの一大傑作である。

どの曲も素晴らしいできばえだが、やはり筆頭に挙げるべきは、あまりの崇高さにファンの間でも戦慄が走った至高の名曲「言葉にできない」である。愛の彼岸にまで達するような神聖な響きと小田和正の崇高かつ悲痛な歌声は、J-POP史上永遠に残る傑作である。

オフコースの音楽を「軟弱」と決めつけていた男性リスナー達も、この作品の前では言葉を失ったほどである。

現在、レコード業界は、若者に音楽を聴いてもらおうと、とってつけたようなバラード集を出しているが、今、日本のリスナーが求めているのは「バラード」ではないのだ。アップテンポであろうが、スローテンポであろうが「心に響く良い歌」が聴きたいのである。

その原点の一つとして、オフコースの「OVER」をもう一度評価してみたいと思う次第である。

1. 心はなれて
2. 愛の中へ
3. 君におくる歌
4. ひととして
5. メインストリートをつっ走れ
6. 僕のいいたいこと
7. 哀しいくらい
8. 言葉にできない
9. 心はなれて
(TechinsightJapan編集部 真田 裕一)