writer : techinsight

【名盤クロニクル】心に残る"うた"を 佐々木秀美「懺悔」

(画像提供:Amazon.co.jp)

(ジャンル:J-シャンソン)
2000年代にいわゆるロックフェス向けアゲアゲ音楽を追究してきたJ-POPは完全飽和状態となり、「ノリだけじゃない、心に残るいい歌が聴きたい」というムードになってきた。そこで慌てて色々なバラード集が量産されているが、バラードにとらわれない、そして時代にとらわれない「心に残る歌」が求められていると言えよう。そこで、日本のシャンソンと呼ばれるジャンルの中から期待の新鋭、佐々木秀美のデビューアルバムを今回は紹介してみたい

日本のシャンソンは、フランスのシャンソンとイコールではない。シャンソンの古典に加えて、クルト・ワイルのキャバレーソングやジャズ、カンツォーネやファド、フォルクローレなど世界各国の歌に加えて、日本人の創作したオリジナルな歌の集大成である。

ところが、あまりにも「歌のドラマ」の表出に力が注がれすぎて、気軽に聴ける音楽ではなかったのである。そのため一部の愛好家の好む曲を繰り返し歌い続けるだけの存在に甘んじていた。

この状況を打破したのが、クミコと佐々木秀美である。二人ともシャンソンの王道を歌いながら、一方では幅広く日本のポップスの名曲をカバーしている。従来のシャンソン歌手のような過剰な感情の表出を押さえ、気軽に聴けて、耳に残る歌をレパートリーにしている。

今回紹介する佐々木秀美のデビュー作「懺悔」の収録曲は、シャンソンの古典に加えて、阿久悠作詞のオリジナルナンバーや、先日逝去した浅川マキの曲、そしてピチカート・ファイブの小西康陽の書いた曲などで構成されており、品のよいアレンジと軽めの歌唱で大人の歌を聴かせてくれる。

佐々木秀美は、1980年生まれであるからこの世界ではまだ超若手である。しかも2003年に発表したセカンドアルバム「聞かせてよ愛の言葉を」では、達者なフランス語歌唱を披露し、2007年のサードアルバム「HIDEMI」では、恐れ多いことにこの世界では超大御所である金子由佳利のレパートリーに真っ向から取り組むなど、まさに若さゆえのタブー無き挑戦を続けている。

「心に残る歌」が求められている現在、佐々木秀美の歌声は、シャンソンに縁のない若いリスナーにも訴えるものがあるに違いない。

ちなみに、風貌も歌声も女性であるが、佐々木秀美は男性である。これもシャンソン界にはよくある話で、美輪明宏が男性であることは知っていても、みんな美輪先生を女性とみなしているのと同じである。女性ヴォーカリストとして聴いてほしい。

(収録曲)
1. 懺悔
2. 告別式
3. 姫
4. まるでお芝居のように
5. 私の船
6. お気に入り
7. 愛の小径
8. 私のすべて
9. ふしあわせという名の猫
10. 少年少女哀恋歌
11. 枯葉
12. ララバイをどうぞ
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)