冬季五輪といえば、やはりフィギュアが華である。フィギュア漫画は思いのほか数が出ているが、一押しはKissで連載中の「キス&ネバークライ」だ。
アメリカに来て2年。少年「春名礼音」は日本を恋しく思っていた。そんなある日、妹が通うスケートリンクで「黒城みちる」と出会う。みちるのパートナーとしてアイスダンスを始めてから、彼の生活は一変した。やっと見つけた自分の居場所、友人たち、そして幼い恋人。しかし幸福な日々は突然の終焉を迎える。
みちるが本格的にフィギュアを始めるために日本へ帰ることとなった。礼音は帰国を嫌がったみちるに家出を持ちかけられるが、断ってしまう。その夜、みちるは家に戻らなかった。礼音がリンクでみちるを見つけたものの、その表情は凍りつき、まるで別人のよう。直後、ふたりのコーチ「四方田駆」の訃報が舞い込んだ。
みちるの変貌の理由がわからないまま、別れの日は訪れる。礼音は手作りのスケート靴をかたどったマスコットを渡し、ようやくみちるの笑顔を見ることができた。
7年後、みちるはシングルでシニアデビューを果たしていた。しかし本来の明るさは消えたままであり、自らの体を痛めつけるような行き過ぎたトレーニングの連続。見かねた母はみちるが子供の頃からやりたがっていたアイスダンスへの転向を進める。母が紹介したコーチの用意したパートナーは、四方田の弟「四方田晶」だった。
時を同じくしてモダンバレエの駆け出しダンサーとなっていた礼音は、先輩のスカウトで日本へ。まるで子供のように再会を喜ぶみちるは、徐々に明るさを取り戻していくように見えたが……。
フィギュアものは女子スポ根の定番である。眠れる才能を知らずに過ごしてきた少女がある日突然他者からそれを見出され、努力、努力、努力、栄光。主人公の健気さ、ライバルとの切磋琢磨、コーチまたはパートナーとのロマンス、そしてなにより、画の華やかさ。少女漫画に必要なものを無理なく凝縮することができるのだ。
しかしこの作品はKiss掲載だ。大人の少女漫画というべきジャンルであるため、そうそう予定調和は必要ない。その代わりに差し込まれたのが、ミステリーである。
少女時代の空白の時間。初恋ともいえるほど慕っていたコーチの死。その二つがからまり、ねじれ、物語に緊迫感を生む。みちるの傷は徐々に明かされていくが、事件の真相はいまだ謎のまま。目を背けたくなるほど残酷な現実と戦いながらみちる、礼音、晶は絆を深め、成長していくのだ。一方コメディタッチの場面も多く、重くなりすぎずに物語を追うことができる。
日本でも年々注目度が高まっているアイスダンスの、シングルにもペアにもない特有の美しさを紙面で表現する小川彌生氏の手腕は見事。スケートの部分がしっかりしているからこそ、事件を追うサスペンスも際立つのだ。
小難しいことを抜きにしても、画の美しさは抜群。バンクーバーでため息をもらしっぱなしのフィギュアファンにもおすすめの作品である。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)