2月22日は猫の日だ。222=にゃんにゃんにゃん、というなんともいえない語呂合わせからなのだが、無類の猫好きである私はどうしても心が浮き立つ。そこで今回紹介するのは「きょうの猫村さん」、ほしよりこ氏によるウェブコミックであり、書籍としては3巻までが発行されている。
「村田家政婦紹介所」所属の「猫村ねこ」。彼女は猫でありながら、人間社会に溶け込んで家政婦として暮らしている。奉公先には学者の主人に美しい妻、人当たりのいい長男と、難しい年頃の長女。一見良家ではあるがどこかほころびのありそうな「犬神家」で、猫村さんはきょうも健気にお勤めを果たす。
この作品のポイントは、なんといっても主人公が猫であることに尽きる。猫が二足歩行をし、日本語を話し(漢字は目下勉強中)、食事を作り、洗濯をする。なぜ猫が?という疑問を他の登場人物が抱くことはさほどなく、猫村さんはいたって普通に家政婦ライフを満喫しているのだ。
猫が家政婦として暮らしているというもっともファンタジックな部分にはあえて触れず、理由を一通り説明したきりで物語は進む。
猫村さんの言動はほとんど普通の人間と変わらない。誰にでも屈託なく接し、少々おせっかい。仕事の後は家政婦仲間とテレビドラマに夢中になったり、芸能人の噂話をしたり。もちろん猫らしい描写も時にはあるのだが、それ以上に多くの日本人が原風景として持っている近所のおばさん像が詰め込まれている。
猫村さんは我々現代人がつい誤魔化してしまったり、目をつぶってしまいがちな面倒な問題にも首をつっこみがち。彼女の素朴かつ含みのない言葉は、少しずつではあるが犬神家の面々に影響を与えていく。時に周囲の人間にうっとうしがられても『あら、猫だからこそわかる事ってあるのよ』とどこ吹く風。この図々しくも温かい猫村さんの存在は、人間関係が希薄になっているといわれている今の時代にこそ非常にまぶしく感じられる。
私のようなひねくれ者はハートウォーミング作品をどこか説教臭く感じてしまうものだが、この漫画には一切それがない。これはやはり、猫村さんが猫だからだ。猫村さんの中身は掛け値なしの近所のおばさんであるが、彼女が人間だったらありきたりの作品にしかならなかったに違いない。
猫の家政婦という不思議な存在を読者に特別視させず、世界の一つとして巧く包括しているのは絵の力によるところも大きい。オール鉛筆書きという素朴なタッチが猫村さんの存在を許し、独特のゆるい世界を作り上げている。それでいながら時折かいま見える真理に、読者ははっとさせられてしまうのだ。
猫が介入することで改めて考えさせられる家族の絆、夫婦の恋、人間の生きる意味。読者はついつい深く考え込んでしまうのに、猫村さんはきっときょうも鼻歌交じりで皿を洗っている。このしてやられた感がたまらない、猫好きならずとも一読の価値のある作品だ。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)