writer : techinsight

【3分でわかる】失恋ショコラティエ

 2月14日はバレンタインデー。菓子メーカーの戦略がどうとかいうつまらない話はやめにして、素直にチョコレートを楽しみたいものだ。そこで漫画もチョコレートものをぜひ。「失恋ショコラティエ」、flowers増刊の凛花で連載中の作品である。

 製菓学校へ通う「小動爽太(こゆるぎそうた)」はクリスマスをきっかけに「高橋紗絵子」と交際。高校時代から憧れ続けた女性が彼女であることに爽太は有頂天であり、バレンタインデーに備えて夜な夜なチョコレートの試作を繰り返していた。

 ところがサエコは爽太が手塩にかけたチョコレートを、“本気チョコ”であるとして受け取りを拒否。聞けば他に付き合っている人がいるというのだ。二股をかけられたことに動揺を隠せない爽太だが、サエコは爽太と付き合っているとすら思っていなかった。その事実を知り、爽太はショックのあまり引きこもる。

 その後爽太は衝動的にフランスへ。かつてサエコの恋人の土産とは知らずにサエコとともに味わったチョコレートの製造元である有名店で働かせて欲しいと懇願する。5年の修業の後、帰国。マスコミで“チョコレート王子”として取り沙汰されるようになっていた爽太の前に、再びサエコが現れた。

 5年ぶりの再会に会話がはずみ、思った以上の好感触を得た爽太。このまま焼けぼっくいに火がつくかと思いきや、サエコは直前に控えた自分の結婚式のウエディングケーキとデザートを作って欲しいと言い出した。結局それが、爽太のチョコレート専門店「ショコラヴィ」の初仕事となる。

 このサエコという女、とんでもない悪女である。大して美人でもないくせにとんでもなく可愛く、男のツボを凄腕針灸師のごとく的確に付いてくる。久しぶりに対面し、『ダメモトでも あたしの正直なお願い聞くだけ聞いて欲しくて』などと紅潮した頬で言われたらそりゃあ誰だって勘違いするであろう。しかも本人はまったくの天然で悪気がないときたもんだ。

 哀れな爽太はサエコの正体を知りながら、想いを止められずにいる。フランスでのショコラティエ修行もサエコを忘れるためではなく、サエコが喜ぶチョコレートを作るためだったのだ。彼女が自分のチョコレートを食べておいしいと言ってくれればいい、『たとえその声が 俺の耳に届くことはないとしても』。そんな健気な想いは再会により少しずつねじれて行く。

 サエコは人妻となってからも何食わぬ顔で爽太の店に顔を出す。爽太はそんな彼女のためにチョコレートを作り続け、サエコに振り向いてもらえるよう、一人前のショコラティエに、一人前の男になるべく努力を続けている。あんな女さっさと押し倒して吹っ切ればいいのにと他の登場人物よろしく思ってしまうのだが、爽太はそれをしない。純粋すぎる想いの影に情念を秘め、サエコをはめる罠を着実に築いていく。

 爽太が見せる二面性はまさにチョコレートだ。甘くてほろ苦く、硬いのに口に入れればすぐにとろける。どんなに美しく成形してもわずかの熱でどす黒い液状へと変化するチョコレートは、まさに恋愛の如しである。あの菓子メーカーはそこまで見込んでバレンタインデーの主役にチョコレートを選んだのかもしれない。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)