writer : techinsight

【3分でわかる】海月姫

 「このマンガがすごい!」2010年版オンナ編4位に続き、「マンガ大賞2010」にもノミネートされた「海月姫」。「ママはテンパリスト」の作者・東村アキコ氏によるラブコメディ作品である。

 主人公はイラストレーターを目指して上京した「倉下月海」18歳。黒髪おさげに眼鏡をかけたクラゲオタクであり、ネットで知り合った友人らと共同アパート「天水館」で暮らしている。住人はみな和装、鉄道、三国志とジャンルは違えどオタク女子ばかり。“男を必要としない人生”を送る彼女らは、自らのことを「尼~ず」と呼んでいた。

 月海がいつものようにタコクラゲの「クララ」に会いに熱帯魚店へ行くと、タコクラゲの天敵ともいえるミズクラゲが同じ水槽で飼育されている。クララのためにそれを指摘しようにも、店員はイマドキの“おしゃれ人間”であった。うまく説明できずに困っている月海の前に現れたのは、まるで“お姫様”のように綺麗な女の子。しかしその正体は、女装した美少年「鯉淵蔵之介」であった。

 クララ事件以来、蔵之介は天水館に足しげく通うように。“おしゃれ女子(おなご)”ということで初めは警戒していた尼~ずたちだったが、蔵之介のフレンドリーさに徐々に打ち解け始める。一方、月海が持つ女子としての高いポテンシャルに気づいた蔵之介は、美しく変身させることに喜びを見出していく。

 一言でいえばイケてない女子のシンデレラストーリー。地味な女子が美しく変身する場面には、女心をつかむ問答無用の良さがある。しかしこの作品はそれだけではない。

 オタク女子の描写が抜群。ファッションや口調といった目に見える部分はもちろん、内面的にも巧みに表現しきっている。男女問わず“おしゃれ人間”たちに感じる引け目。根底に抱えるぬぐいきれない劣等感。かといって単純に“おしゃれ人間”になりたいわけでもない複雑な自己愛。それでも外見の変化で浮き立つ心。オタク女子の一員として、いちいち大きくうなずいてしまった。

 尼~ずのリアルさの秘密は、コミックスに収録されているおまけ漫画を読めば明白。そもそも東村氏がオタク女子であったのだ。自身のキモさを存分に描いたおまけ漫画は、本編同等の魅力に満ちている。

 本編は主人公である月海と蔵之介の目線で進んでいく。切り替えに慣れるまではやや落ち着きのないように思えるが、これが作品全体のドタバタ感を象徴しているようで悪くはない。さらには月海に特別な感情を抱きつつある蔵之介と、蔵之介の兄「修」に恋する月海のすれ違いを際立たせるために一役買っている。

 月海と蔵之介、おのおのの独白で少しずつ明らかになってきている家族への特別な思い。過去を乗り越えた2人が結ばれる、というありきたりではあるがハッピーこの上ない結末に収束するのであろうか。もうしばらくそれを先延ばしにして、一癖も二癖もあるキャラクターたちの群像劇を楽しんでいたい。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)