writer : techinsight

【名盤クロニクル】ジョージ・ウインストン「ウインター・イントゥ・スプリング」

(画像提供:Amazon.co.jp)
冬本番を迎え、首都圏で初雪を観測するなど日本列島が寒さでこごえている昨今であるが、「冬来たらば春遠からじ」という格言のとおりに、あと三ヶ月で桜が咲く春である。そんな季節にふさわしいピアノソロアルバムが、このジョージ・ウインストンの「ウインター・イントゥ・スプリング」である。

タイトルのように、冷たい空気の中で星を見上げたり、公園を散策したりしながら、少しずつ春に向かう季節の移ろいを、明るいピアノソロで演奏したアルバムだ。

現在、ジョージ・ウインストンの音楽は、日本の喜多郎や宗次郎などと同じく「ニューエイジ」とか「ヒーリング」と呼ばれる音楽に分類されているが、このアルバムが発表された1982年当時、そうしたジャンルは存在していなかった。

音楽メディアと言えば、テレビ・ラジオ・雑誌しかなったこの時代、不幸なことにジョージ・ウインストンはジャズピアニストとして、ジャズ専門誌でプロモートされることになったのである。

当然「こんな音楽はジャズじゃない」とクソミソに言われていたのだが、どう聴いてもジャズではないのだから、薔薇を指さして「これは菊じゃない」と言うのと同じであった。

幸いにして、一部の熱心なリスナーはもとより、広く女性からのウケは良く、様々なフォロワーが登場して、いつしか「ニューエイジ」というジャンルが形成されるようになった。

音楽がリスナーを掘り起こし、リスナーが増えれば同じような音楽傾向を持つアーティストがどんどん出てきて、それらをまとめるための「ジャンル」というものが形成される。
音楽は音楽家だけが作るのではなく、リスナーも参加しながら盛り立てていかれるものなのだ。

このアルバムは、楽曲が進行するにつれ、少しずつ春の息吹を感じられるようになっていて、四季の微妙な移ろいをこれほど見事に表現した音楽は、なかなかないであろう。

旧暦の初春(正月)は、新暦の2月半ばである。日本ではバレンタインの騒ぎにかすんでいるが、旧正月を迎えるつもりで聴いてみると、この作品の美しさがいっそう感じられるだろう。

(収録曲)
1. 1月の星
2. 2月の海
3. 波
4. きらめき
5. レイン/ダンス
6. 花/草原
7. ヴェニスの夢~パート1:イントロダクション
8. ヴェニスの夢~パート2
9. パイン・ヒルズ
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)