「マンガ大賞2010」ノミネート作品が発表された。爆発的なヒット作と呼べる作品はさほどないが、だからこそ発掘しがいもあるというものだ。まずはビッグコミックスピリッツで連載中の「アイアムアヒーロー」を紹介する。
漫画家のアシスタントをして暮らしている「鈴木英雄」35歳。自身も漫画家であり、有名出版社で連載をしていたこともあるが、わずか半年で打ち切られている。再び這い上がることを夢見て、アシスタント業のかたわらネームを編集部に持っていく日々を送っていた。
唯一の癒しは、同じ業界に身を置く恋人「黒川徹子」との時間。酒乱という一面もあるが、優しく誰よりも鈴木を理解し必要としてくれている。
そんなある日、いわくつきと噂される大木のそばでタクシーが女性をはねる場面に遭遇する。驚くべきことに、はねられた女性は首が折れているにもかかわらず立ち上がり、歩き始めたのだ。鈴木はあまりに非現実的な光景に恐怖を感じたが、すぐに日常に戻っていく。
その後、鈴木は些細なことで徹子とけんかをした。仲直りのために彼女の住むアパートへ向かいドア越しにうかがうが、様子がおかしい。すると突然、変わり果てた姿の徹子が襲い掛かってきた……!
主人公の設定。アイアムアヒーローというタイトル。その言葉が使われるシチュエーション。そのどれもがさえない男の再生譚を予想させる。実際に10話「臨界」まではその通りなのであるが、そこから先は思いもよらぬ展開が待っていた。
まさかのパニックホラー。あまりにも唐突な変貌はホラーとして最大限の効果を上げ、読者にとんでもない恐怖を与える。特に11話クライマックスの見開きはすごい。心臓が弱い人ならトラウマ確定の恐ろしさである。
特筆すべきは件の恐怖シーンがコミックス1巻のラストであること。1巻だけが発売されていた状態で内容を知らずに読んでしまった人がいたとしたら、心中察する。2巻が出るまでにあの恐怖とどう付き合っていけというのだ。
徹子をはじめとする人々の変貌や、鈴木だけに見えるらしい「矢野」の存在など、現在発行されているコミックス2巻までは謎ばかり。唯一真実を知っているかのような雰囲気を匂わせていた人物も死んでしまい、これからの展開が非常に気になるところである。
ちなみにこの作品、まもなく公開される映画「ボーイズ・オン・ザ・ラン」の原作漫画と作者は同じ。映画を見て興味を持ったからといって、アイアムアヒーローの方は手放しでおすすめすることはできない。少なくとも今の段階では、本当に、本当に、怖いのだ。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)