年末年始は実家で、という人も多いことであろう。帰省の楽しみの一つが、実家に置きっぱなしとなっている漫画のまとめ読み。そこで、30代以上の方ならばかなりの確率で実家に保管されているであろう名作「BANANA FISH(バナナフィッシュ)」を紹介する。
1973年、ベトナム。サイゴン陥落のおよそ2年前に、アメリカ兵「グリフィン・カーレンリース」が仲間を射殺する事件が起こった。麻薬によるものと思われる錯乱状態の中、グリフがつぶやく。『バナナ…フィッシュ…』と。
そして12年後。ニューヨークのストリート・キッズを束ねるボス「アッシュ・リンクス」は、仲間が見知らぬ男を撃つ場面に遭遇する。男が事切れる瞬間、残した言葉にアッシュは驚きを隠せなかった。『バナナフィッシュってなんなんだ?』――実はアッシュは廃人同然となっているグリフの面倒を見ており、グリフが発作を起こすたびにその言葉を聞いていたのだ。
時を同じくしてニューヨークでは実力者の不審な自殺が相次いでいた。さらには退役軍人の機関誌でバナナフィッシュについての記事を発表しようとしたライターが死亡。“バナナフィッシュ”、謎の言葉の周りで次々と謎の事件が起こっていく。
そんな折、日本からストリート・キッズの取材に来た「伊部俊一」と「奥村英二」。警察を通してアッシュを紹介され、取材を行っている最中、マフィアからの襲撃を受けた!アッシュと英二の長い長い戦いは、ここから始まる。
バナナフィッシュという謎の言葉から始まるスリルとサスペンス。ベトナム戦争に赴いたアメリカ兵、ニューヨークのストリート・キッズ、日本人ジャーナリスト、コルシカ・マフィア、華僑、まるで接点のなさそうな人物を結びからめとる不思議な糸が読者の心を縛り上げ、一気にクライマックスまで到達させる。
恋愛の要素はゼロ。アッシュと英二の関係はどちらかを女性に置き換えた方がすんなり来るほどであるが、そこに厭らしさは皆無である。
マフィアのボスの男娼兼後継者として育てられた金髪緑眼の美少年、アッシュ。有望だった将来を棒に振りながらも平凡な幸せに包まれてきた英二。まるで境遇の違うふたりはともに過ごすうち友情よりも深く、恋愛よりも強い絆で結ばれていく。
時にバナナフィッシュの謎など忘れてしまうほど濃密に描かれたふたりの関係性。大風呂敷を広げるというよりは奥行きを深めるような展開は独特である。ラストは風呂敷をたたむことなくあまりにもあっけなく終わってしまうが、それがまたはかなく、せつなく、美しい。
少女漫画はふわふわキラキラのラブストーリーばかりではない。知る人ぞ知るサスペンスの良作が多く眠っているのだ。この作品はまさにその筆頭であり、漫画好きならば男性でも読むべき名作である。まずは帰省の折、姉妹の部屋に黄色い背表紙がずらりと並んでいないか確認してほしい。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)