トヨタは、現在参戦中のモータースポーツの最高峰フォーミュラ・ワン世界選手権(F1)からの撤退を発表した。
トヨタは、2002年から8年間参戦してきて表彰台13 回、入賞87 回という戦績を残してきた。
しかし、この度F1から撤退することが発表された。
非常に残念である。世界一の自動車メーカーといってもいいトヨタがこの決断を下す背景には何があるのか。
トヨタは、急激な経済状況の変化と経営環境を踏まえての決断と述べるが、トヨタ以上に厳しい経営環境におかれているメーカーはF1に参戦している中にもいるはずだ。むしろほとんどのメーカーがそうかもしれない。
そうなると、なぜ今トヨタが?という疑問につきあたる。
F1に参戦すると、年間かかるお金は数百億ともいわれる。
しかし、それでもそこにメリットがあるから参戦するのである。
自動車メーカーとして世界最高峰の舞台でよい成績を収めればこれ以上ないステータスとなる。その結果がメーカーブランドの向上、販売台数の向上となるのだ。
また、各メーカーが速さ、安全性、燃費性能などの向上を図るために研究開発を続け、その結果が市場向けのモデルにフィードバックされて自動車の性能向上の足がかりをつくる。
トヨタは、このメリットと参戦することでかかる経費を天秤にかけて撤退という決断を下したわけであるが、やはりまだ「なぜ」という疑問が残る。
ここ数年のF1は毎年ルールが変わり、それに対応すべく研究開発が進められる。F1も一般の自動車同様にコンピュータ制御や電子制御が多く使われているが、その精度やシビアさといったらレベルのまったく違う次元である。「車」が走っているというより、「動く精密機械」である。
そのため、速くなるためのコストが年々増加するのだ。そして、その研究開発の成果も「F1で速く走るため」に特化せざるをえなくなり、一般の車へのフィードバックが難しくなってきている。
それに追い討ちをかけるかのように、景気の後退、環境への配慮などが叫ばれ、巷で売れる車は、燃費のよい車、通称「エコカー」ばかりである。
F1で培った速さ、安全性などはほとんど重要視されず、タイトルを獲ってもエコカーの売り上げにどれだけのプラスになるであろうか。爆音とともに走り去るF1マシンを観て、環境への配慮と大声で叫ぶことと逆行しているとい声も聞こえてくるであろう。
こういった、情勢や環境がトヨタのF1撤退の本音であると思われる。F1への参戦で経営難に陥っていては本末転倒であるが、F1ではホンダも既に撤退し、ラリーの最高峰WRCではスバルも撤退、参戦を表明していたスズキも参戦を断念している。本当に寂しい限りである。もちろん各メーカーにとっても苦渋の決断だったに違いない。
この結果が後々の自動車の発展に悪い影響を与えないだろうか。
世の中の情勢が上向きになり、参戦して結果を残すことで大きなメリットが生まれる時期がまたやってくることを願いたい。
(TechinsightJapan編集部 ”自動車魂世界一”car journalist 木下)