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(ジャンル:クラシック)
バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」は、ヴァイオリン音楽の聖典とも言われており、全6曲2時間に及びヴァイオリン一挺で築かれる音の伽藍は瞑目して鑑賞すべき崇高な音楽である。
しかし、あまりに崇高すぎて聴くのに相当な覚悟が必要な曲でもある。そんなこの作品集をもっと心地よいヴァイオリンソロ曲として演奏してしまった異色の録音が、鬼才ギドン・クレーメルによる演奏である。
この音源がリリースされたときには、かなり話題になったものである。今から50年ほど前に、ピアノの鬼才と呼ばれたグレン・グールドが同じくバッハの「ゴルトベルト変奏曲」を、スピード感あふれる斬新な解釈で発表したのと同様、クレーメルのこの演奏は、バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」を、もっと自由で明るい音楽として演奏している。
この作品は、短調の曲が多く、良くない演奏や録音で聴かされると、学校で教師に叱られているような気分になることがある。
しかし、クレーメルの演奏は過剰に謹厳さを求めることがなく、曲の厳粛な雰囲気を保ちながら、スリリングなソロヴァイオリンの妙技を聴かせてくれる。
この作品は、クレーメル以外にも多くのヴァイオリニストが録音を残しているが、ヴァイオリンのピッチ(弦の張力)や、ボウイング(弓裁き)の違い、そしてホールの残響や録音の善し悪しなどによって、様々な表情を見せる曲である。
この曲の魅力にとりつかれて、存在する音源を全て入手しなければ気が済まない「追っかけ」状態になっている愛好家も多い。
とかく堅苦しいと思われがちなバッハであるが、恐れずに聴いて欲しいものである。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)