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【名盤クロニクル】ウイントン・マルサリス「ライブ・アット・ヴィレッジバンガード」

(画像提供:Amazon.co.jp)

ウイントン・マルサリスはジャズ史上屈指の天才的なトランペッターであるが、こと日本においては、「退屈」「計算高い」といった否定的な評価が少なくない。しかし、これは聴き方に問題があることが多いようだ。

確かに1980年代初頭のデビュー時の演奏は、テクニックばかりが先に立って、内容に乏しいものもあったが、90年代以降はオリジナルな表現を身につけ、その天才的なトランペットテクニックが冴え渡るようになった。

ただ、ジャズに「求道」とか「修行」とか「精神性」とかいうものを求める向きには、ウイントンの音楽は退屈に聞こえることがあるだろう。
しかし、彼の音楽はジャズからそういった、ある意味で余計な要素をはぎ取った、音楽様式としてのジャズを最高の演奏で聴かせることに主眼が置かれているのである。

そういった、音楽様式としてのジャズが圧倒的なインプロヴィゼーションとともに表現されているのが、今回紹介するヴィレッジバンガードの7枚組ライブである。
もうひれ伏すしかないほどの、超絶テクニックがこれでもかとばかりに繰り出される。
トランペットという楽器をここまで饒舌に吹ききる演奏者は、ウイントンを置いてほかにいないであろう。

ロックの世界では超絶テクニシャンは大変な尊敬を受けるのに対して、ジャズの世界ではしばしば巧すぎるミュージシャンを「テクニックに走りすぎる」として、退ける傾向が見られる。

ウイントンの演奏を聴くときには、スーパーテクニシャンの技の切れ味を虚心に堪能すればよいのである。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)