素晴らしくも重苦しい作品のチョイスが続き、やや息切れ気味である。ここはひとつ、思いきり能天気な作品を読むとしよう。「女子妄想症候群(フェロモマニアシンドローム)」、昨年まで花とゆめで連載されていた少女漫画である。
女子高生「唯木滸(ゆぎほとり)」は幼なじみの男の子「炬烔至(かがりけいし)」に恋をしていた。しかし178cmの長身を気にして思いを伝えることができず、155cmの烔至を見下ろすばかり。ところがその視線は尋常ではない。滸は女の子と見まごうばかりの犯罪的な烔至のかわいさを、電車の中でその尻を触った痴漢に羨望と嫉妬を抱くほどの強さで愛でているのだ。わかりやすく言ってしまえば、ようするに、ハァハァしているのだ。
友人たちの協力もあり、めでたく烔至とつきあうことになった滸。だが、滸はまだ知らなかった。烔至の隠された裏の顔を。純情妄想少女と一見天使風美少年の恋は周囲を巻き込んで暴走気味に加速していく。
滸は烔至のかわいさに妄想がとまらない。バニーガールやシスター、猫耳、眼鏡白衣、さまざまな衣装、シチュエーションを想像しては身もだえ、鼻血を吹く。幻覚や聞き間違いも日常茶飯事。友人からはいつか警察に捕まると言われ、自分でもいつか烔至をどうにかしてしまうのではという不安に襲われている。
しかしながら烔至には件の裏の顔がある。ちょっとしたことでがらりと人相が変わり、毒舌は吐くは、暴力は振るうわ、チンピラ顔負けの迫力だ。滸の前ではその顔を隠しているのだが、豹変のきっかけとなるのはたとえば滸とのデートを邪魔される、滸の長身をからかわれるなど、たいてい滸に関してのことなのである。
男らしい女性と女らしい男性の恋物語は、フィクションの世界では比較的王道である。女性が隠し持っているやさしさや男性が垣間見せる強さに互いが惹かれている様を読者に見せるのが定石であるが、この作品ではさらに2つの要素がプラスされている。妄想と外道、単語だけではとても少女漫画にふさわしいものではないが、この2つを軸としたラブストーリーは驚くほどポップでキュートだ。
めくるめく妄想、吹き出す鼻血、漫画であることを最大限に利用したアッパーな描写の数々。おばかで、ハイテンションで、ハッピーに満ちたこの作品は、ラブコメディどころの騒ぎではない、とびっきりのラブギャグである。
また、そんじょそこらの男ではかなわないほどかっこいい滸と超絶美少年・烔至が怪しくからむコミックスの表紙が実にあざとい。「女子妄想症候群」のタイトルもあいまって、その手の漫画だと勘違いさせる気満々である。さすが白泉社、抜かりはない。
ちなみに、“もうそうしょうこうぐん”と入力したら“妄想症”行軍と変換されてしまった。妄想症という言葉あることを恥ずかしながら知らなかった私は、グーグル先生に意味を聞いてみることに。あるサイトには「根拠のない極端な疑い深さまたは不信を意味する精神医学領域の人々に使用されている言葉」とあり、さらに別にサイトには一人暮らしの高齢女性に多いとあった。思い当たる方、私とともに自重しよう。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)