新型インフルエンザが企業経営にも大きな影響を及ぼしている。民間の調査機関である財団法人労務行政研究所の調査によると、子どもの感染拡大で学級閉鎖なども増える中で、従業員の同居家族が感染した場合、3社に1社は保健所の判断を待たずに自宅待機を検討していることが分かった。この場合、賃金や休業手当は支払われるのだろうか。
民間の調査機関である財団法人労務行政研究所が、新型インフルエンザ対策について緊急の企業調査を行った。調査は7月下旬から8月上旬にかけて民間企業の人事労務担当者を対象に実施され、回答の得られた360社の結果を集計した。
まず、生活必需品や感染予防のためのマスクなど保護具の備蓄状況について訪ねたところ、それらの備蓄を「行った」企業は4社に3社にあたる75.7%となった。また、備蓄していると回答した企業に対して具体的に備蓄しているものを複数回答形式で尋ねたところ、「マスクなどの保護具」が最も高く99.6%で、次いで「消毒用アルコール性手指消毒剤」が84.8%となった。
一方、「食料・日用品」は18.6%、「タミフルやリレンザ」など抗インフルエンザウイルス薬は12.3%にとどまった。規模別にみると、1000人以上の従業員を抱える大企業では4社に1社が食料品やタミフルなどの薬を備蓄していることもわかった。タミフルは医師の処方に基づく薬であり、大企業ほど常備する割合が高くなるのは、社内に医師や医療機関を置いていることも関係するとみられる。
調査では次に、新型インフルエンザ流行時の感染予防策として、各企業が義務づけまたは推奨したものを複数回答形式で尋ねた。その結果、「出社時や外出先から帰社時の手洗い(アルコール消毒を含む)」が93.6%で最も高く、以下「通勤・外出時のマスクの着用」が85.3%、「海外出張の自粛」が73.1%などとなっている。
また、従業員の同居家族が新型インフルエンザに感染した場合、従業員自身にも感染する可能性が高いことから、職場に感染を広げるリスクがある。そこで調査では、同居家族のインフル感染が確認した場合の出勤制限を行うかどうかについても尋ねた。その結果、「保健所から『濃厚接触者』として外出の自粛要請が出された場合は自宅待機とする」が43.1%と最も高く、次いで「保健所の判断を待たず、原則として自宅待機とする」が33.9%となった。ただし、大企業では4割以上が保健所の判断を待たずに自宅待機を命じると回答した。
そして気になるのはその場合の賃金だ。従業員に感染が確認され、本人を自宅待機とした場合の賃金等の取り扱いについては、「賃金を通常どおり支払う(欠勤しても控除がない)」が33%と最も高くなったが、「賃金や休業手当等は支払わない」という企業も22%にのぼった。
ちなみに新型インフルエンザの患者に対しては、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(=感染症予防法)」により都道府県知事が入院あるいは外出自粛等を要請できることとされており、これに基づいて保健所が外出自粛等の要請を行った場合は、企業が自宅待機にするまでもなく休務となる。
この場合の賃金については労働基準法第26条に記された「使用者の責に帰すべき事由による休業」、例えば経営上の理由による休業など企業側に責任の所在がある休業には該当せず、企業は従業員に対して休業手当を支払わなくても良いとされている。ただし、労務行政研究所によると、保健所から外出自粛の要請が出る前に企業の自主判断で従業員に自宅待機を命じた場合は「企業独自の判断で行う休業」にあたるため、休業手当が必要とされる可能性があるという。
また、現在保健所や医師で呼びかけている自宅待機や外出自粛は前述の感染症予防法に基づくものではなく、本年6月に改定された「医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針」に基づくもので、いわば法の根拠をもたない緩やかな要請である。そのため、「休業手当」を支払うべきか否かについては個別に確認する必要があるという。
なお、今回の調査結果の詳細は、今月25日発行の人事労務の専門情報誌『労政時報』第3758号および10月上旬発行予定の労政時報別冊『企業と社員を守る新型インフルエンザ対策』に掲載されるほか、財団法人労務行政研究所のホームページでも公開されている。
(TechinsightJapan編集部 鈴木亮介)