22日、キングオブコント2009決勝ラウンドが行われる。18日からはM-1グランプリの予選も始まっており、年末までお笑い界の盛り上がりは加速する一方だ。お笑い好きにとっては胸躍るシーズンとなるわけだが、ここでオススメの漫画をひとつ紹介したい。「べしゃり暮らし」、森田まさのり氏が現在は週刊ヤングジャンプで連載している作品である。
“学園の爆笑王”を自称する高校生「上妻圭右」。休み時間の教室、体育の授業中、すきあらばボケまくり、周囲から笑いを取ることが生きがいだった。
そこに現れた関西からの転校生、元芸人という経歴を持つ「辻本潤」。初めはそのおもしろさに惹かれ友好的だった上妻だが、自分よりも辻本の評価が高くなるにつれ、ライバル視するようになっていく。そこで上妻が考えた驚くべき逆転の一手。それにより上妻のわだかまりは解け、辻本は新しい相方候補として上妻のことを考えるようになっていった。
紆余曲折を経て、上妻と辻本はコンビ「きそばAT(オートマティック)」として文化祭のステージに立つ。漫才の楽しさを全身で感じ取った上妻はお笑い芸人をめざすことを誓うが、直後挑戦した「NMC(ニッポン漫才クラシック)」一回戦で完膚なきまでスベってしまう。きそばAT、早くも解散の危機か――。
主人公は上妻であるが、コミックス8巻現在いまだデビューはしていない。それどころか父に芸人を志すことを明かすことすらできない始末であるが、辻本の知り合いであるプロの芸人たちにスポットを当てることで芸人漫画として成立している。
作品にはコンビの片方だけが活躍する気まずさや方向性の違いによる解散、コンビ間の恋愛、いじられる家族の心境など、お笑いに関する気になるあれこれが満載。芸人の苦悩が非常にリアルに描かており、それが紙面を通じて痛いほど伝わってくる。
それもそのはず、作者である森田氏はこの作品のために綿密な取材を行っている。それはNSCに入学したほどの力の入れようなのだ。
しかしこの作品は取材をただ垂れ流すだけのつまらないドキュメンタリーでも、読者の好奇心を満たすため歪曲をくわえたスキャンダラスなものでもなく、純然たるエンターテインメントである。その鍵をにぎっているのが、上妻の存在だ。
芸人の卵である上妻は、その若々しい向こう見ずさでプロ芸人たちに立ち向かい、時として良い方向へ導いていく。フィクションならではの立ち居ふるまいは痛快の極みであり、ひたすらに熱い。森田節ともいうべき作品全体のタッチが主人公・上妻に凝縮されているのだ。
泣いて、怒って、笑って、元気になれる。笑いだけを提供する芸人を漫画で描くことにより初めて生まれる感情が、ぎっしりと詰まった作品である。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)