「メンズ校」に触発され、引き続き男子校&男子寮漫画といこう。「ここはグリーン・ウッド」、1986年から1991年にかけて花とゆめで連載されていた男子寮ものの金字塔である。
主人公「蓮川一也」は理想とする兄の後を追い「緑都学園」に入学。しかし当の兄がエリート街道を歩まずに学園の養護教諭になったことと、自分の初恋の相手と結婚したことに反発して家を出、「緑林寮」、通称グリーン・ウッドに入寮する。
名門校の寮であるはずのグリーン・ウッドはなかなかの曲者ぞろい。顔も頭もいいが性格はどうにもアレな寮長「池田光流」、やはり顔も頭もいいがすべての寮生の弱みを掌握するほどの生徒会長「手塚忍」、どう見ても女性にしか見えない「如月瞬」らが、毎日のように蓮川で(と、ではない)遊ぼうとてぐすね引いていた。
男子寮が舞台ということでよからぬ想像をする方もいるだろうが、残念ながらその要素はない。カップルもいることにはいるが主要な登場人物ではないし、あくまで男子寮を描くディテールの一つに収まっている。それでいながら『ホモネタしてください』なる要望が作者である那須雪絵氏に届いていたという。腐女子という言葉が生まれるゆうは10年以上も前に、すでにニーズがあったことが興味深い。ちなみに先述のカップルのなれそめはコミックス3巻に番外編として収録されている。
BL要素うんぬんよりも強烈なのはホモ、レズ、倒錯の世界など、現在の漫画ではあまり見ない単語がぽんぽん飛び交うこと。当時は現在のようにおためごかしのオブラートは必要なかったのであろう。登場人物のほとんどが高校生でありながら、飲酒、喫煙も当たり前の世界である。
この他にも時代を感じさせる部分はあるものの、この作品には現在の少女漫画の原点がつまっている。お人よしな主人公、カリスマ性のある学園のアイドル、冷静沈着な策略家など、お定まりのキャラクターが続々。男だらけの体育祭は異常なまでの盛り上がりを見せ、文化祭は女装でファンサービスを怠らない。番外編でファンタジーやSFをはさんだり、読者のリクエストに応えたりする遊び心もある。
コミックス11巻にわたった物語の終焉は驚くほどあっけない。謎に包まれたままの人物や、回収されていない伏線もある。読者からすればまるで作品から放り出されたような気になるが、こうして部外者を排除することでグリーン・ウッドの世界は真の完成を見たように思う。作品が幕を引いても蓮川らの日常にはなんら変わりはない、ということか。
終わらない放課後。これはグリーン・ウッドと同時期に花とゆめで活躍していた他の漫画家が使っていた言葉だ。グリーン・ウッドを指していったのではなかったが、まさにこの言葉がふさわしい作品であると私は思う。コミックスを開けばいつでも“ここ”にグリーン・ウッドがあり、蓮川らはいつまでも終わらない放課後をくり返すのだ。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)