漫画を原作としたテレビドラマが次々と作られ、ヒットすれば同キャストで映画化されることがもはや一連の流れとなりつつある中、テレビドラマの放送を前に映画化がすでに決まっていた作品がある。「猿ロック」、週刊ヤングマガジンで2004年から連載中のアクション漫画だ。
主人公は“鍵屋”の息子「猿丸耶太郎」、通称「サル」。高校生ながら天才的な鍵開けテクニックを有し、繁忙期や父不在時には一人前の“鍵師”として仕事をこなしていた。
ある日、サルのもとに憧れのアイドル「福音由紀子」から『私のAVを盗み出してきて欲しい』と依頼が舞い込む。由紀子が所属する芸能事務所社長から報酬は由紀子の体で、とそそのかされ、脱童貞をめざしサルは依頼を受けることにした。由紀子が別れた恋人に撮られたというそのビデオを無事取り戻し、サルは男になれるのか――。
この作品は1つのエピソードごとに数話を割くスタイル。上記は連載スタート時のエピソードであり作品全体の雛形でもある。わかりやすくいえば、かわい子ちゃんから依頼→鍵を開けて解決、という非常にシンプルな流れとなっているのだが、これだけでは連載が5年も続くはずがない。この作品の凄みは、力の入れどころと抜きどころ、もっと言ってしまえばシリアスパートとバカパートがはっきりしているところにある。
シリアスパートでは舞台が渋谷ということもあってか、チームの抗争やドラッグの蔓延など、若者の傷にスポットを当てるようなエピソードが多い。しかしサルはGTOでも夜回り先生でもないため、そういったトラブルを真正面から解決することはできない。鍵を開けるだけですべてが解決するなど漫画の中ですら夢物語であり、それをやってしまったらこの作品は鍵開けファンタジーとなってしまう。そうなれば別の意味で興味も沸くが、この作品には最低限のリアリティが存在しているのだ。
サルはただ鍵開けが得意なだけの一般高校生であり、その素顔はバカパートでいやというほど堪能できる。童貞であり、頭の中はセックスでいっぱい。これはこれで私からすれば一つのファンタジーではあるが、おバカでエロいのはなにも青年漫画の主人公だからではないだろう。初めての合コンのくだりや“童貞マップ”、AV鑑賞会などのすがすがしいまでのバカっぷりは、多くの男性読者の共感を得ていそうだ。
男性向けの漫画でありながらキャッチーな絵柄も魅力の一つ。ドラマで興味を持った漫画の表紙を見て読む気が失せた経験のある女性は多いと思うが、この作品は大丈夫だ。イッチー効果とあいまって今後女性ファンが増えることも十分に考えられる。
僭越ながらドラマについても触れさせてもらえば、悪くはないと思う。深夜ドラマならではの実験的な映像処理はスタイリッシュであり、サルも原作のイメージに近い。「山本」について異を唱えるファンもいそうだが、個人的には割り切れる範囲だと感じた。回を重ねるごとに視聴率が下落しているのが気になるところではあるが、映画化を発表している以上後には引けないはずだ。どうか漫画に泥を塗ることのないよう、奮起してほしい。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)