writer : techinsight

松山ケンイチ、“梅佳代(ウメカヨ)・ワールド”の住民に。『ウルトラミラクルラブストーリー』写真集

「ウルトラミラクルラブストーリー」PICTURE BOOK(角川メディアハウス 税込み1575円)

大ヒットを記録している松山ケンイチ主演『ウルトラミラクルラブストーリー』。とっつきにくい津軽弁が多用され、奇想天外なラブストーリーと、ガチャついた松ケンの演技にびっくりしたファンも多かった事であろう。しかし見終わった後に残る不思議な清涼感と松山演じる陽人の愛おしさ。それらが一冊の写真集として発売されている。圧倒的な存在感の陽人をフレームに収めたのは、人気女性写真家の梅佳代。子どものように無邪気な松山ケンイチにドキリとしよう。

最近書店で見かける角川文庫「太宰治生誕100周年フェア」全10冊の各表紙にあしらわれている梅佳代の写真。「人間失格」、「走れメロス」など一見、本の内容とまるで無関係に見えるが、梅佳代の写真のもつ人間味が、名作と現代を結ぶ強い力を発している。

近所に住む小学生や、自分の祖父など、とにかく身近にいる被写体のユーモラスな一瞬をとらえた写真を発表し、同世代のみならず老若男女さまざまな人の心をガッチリ掴んだ20代の写真家・梅佳代。空を見つめる子供が表紙の写真集『うめめ』(リトルモアブックス)は、写真集では異例の大ヒット。今や梅佳代の映し出すウメカヨ・ワールドは、パリやロンドンなど、世界各地に驚きと笑いをふりまき、高く評価を得ている。

そんな梅佳代が、前作『ジャーマン+雨』からの付き合いである横浜聡子監督の映画『ウルトラミラクルラブストーリー』の世界を切り取るために、映画撮影中の青森へ向かった。驚いた事に、映画のストーリーをほぼ理解しないまま、主人公・水木陽人を演じる松山ケンイチを撮影することに。そして完成したのが「ウルトラミラクルラブストーリー」PICTURE BOOK(角川メディアハウス 税込み1575円)である。
表紙の写真に使われている「ハート型に虫食われた小さな葉」、「浜辺に落ちていた大根」、「廃棄された冷蔵庫のとびら」など、そこらにあったモノが“ミラクルな演出効果”を生み、ポーズをとる写真撮影がキライと言われる松山が自然にフレームに納まっている。それは一瞬にして人の内面を読み取る梅佳代の力量ならでは。スピード感溢れるこの写真集に登場する松山ケンイチは映画以上に濃く主人公・陽人の人間性を表わしている。写真の中の陽人の人懐っこい目線がたまらなく愛おしい。

横浜監督の才能を信じきった梅佳代が、やはり監督の意思を注入された松山ケンイチの魅力を引き出し、松山がそれに答えている。若い才能の集結した一冊のフォトブック、ぜひご鑑賞あれ。
(TechinsightJapan編集部 クリスタルたまき)