月刊IKKIで連載中の「俺はまだ本気出してないだけ」。まるでダメな男の日常をギャグタッチで描いた漫画作品である。
主人公「大黒シズオ」は40歳。“なりゆきで就職して15年なんとなく働いてきた”会社に理由もなく辞表を出し、ゲームに明け暮れる日々を送っていた。自分探しという名目でどんどん自分を見失うシズオは、ある日突然、マンガを描くことを決意する。
呆れる家族をよそに、徹夜で机に向かうシズオ。しかし描くことがなにもないことに気づき、途方にくれる。気分転換に出かけた風俗店では高校生の娘「鈴子」と鉢合わせ。どこどこまでも“残念な感じ”の自分に腹を立て、再び机に向かう。
投稿作品が努力賞を得るも、ついた担当に作品を見せてはボツにされるをくり返すシズオ。バイト先のファーストフード店では若者に“店長”とあだ名をつけられて馬鹿にされ、合コンで知り合った女性にまで説教される。そんな中、シズオはついに『本気出す』宣言をした。
主人公のこの気持ちいいまでのダメっぷりはどうだ。40歳をすぎて定職につかず、マンガを描くことに明け暮れ、娘から借りた金で酒を飲む。しかしながらシズオの自分に正直すぎる生き方は、なぜか周囲の人を惹きつけていく。
かといってこの作品はありがちなお涙頂戴人情物ではない。“中年もがんばっています”の言葉通り、ただひたすらにあがくシズオのみっともない日常を描いたものである。現実にいそうでいなさそうな、やっぱりいそうな、シズオのふわふわ感が絶妙だ。
読み終えた後はなんともいえないじめっとした、そこはかとなく不快な気分になる。それでいてつまらない作品ではけっしてない。読者がシズオと同じ中年であれば自らを叱咤する材料にも、甘やかす要因にもなるであろう。
この作品を読んだ若者はどのような感想を持つのであろうか。シズオのような大人にならないよう気を引き締めて生活してほしいが、ほんの少しでいいから中年の辛さをわかってほしい気もする。これを読んで笑い飛ばして終わるだけの明快さは、現実の中年にはすでにないのだから。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)