女性キャラのインフレが目立ってきたこち亀こと「こちら葛飾区亀有公園前派出所」だが、押しも押されもせぬヒロインといえばやはり「秋本・カトリーヌ・麗子」であろう。モデルばりの美貌とあらゆる方面に突出した才、まさにスーパーレディーの呼び名がふさわしい。
麗子の初登場は意外にも遅く、コミックスにして11巻(現在発行されているコミックスでは4巻巻末に収録された特別漫画でその姿を確認することができるが、本編での登場はコミックス11巻を待たなければならない)。連載100話目という記念すべき回に、スーパーレディーはパトカーごと派出所につっこんできた。
当初の麗子は世間知らずで鼻っ柱が強いイマドキの女性といった雰囲気。お嬢様というよりも、若い女性なら誰でも持っている高慢さで周囲をふり回している。そんな麗子も中川同様、連載が進むにつれて大人しくなってきてはいるが、それでも作品におけるヒロインとしての働きは忘れてはいない。
少年ギャグ漫画におけるヒロインの最重要任務といえば、なにはなくともお色気であろう。胸元の大きく開いたジャケットにミニスカートという特別製の制服姿は今でこそどうということもないが、麗子が作品に現れたのは1980年。当時の少年読者たちの心をいかに騒がせたかは想像に難くない。
主人公とのロマンスもヒロインの果たすべき義務の一つである。事実、多くの読者は麗子が両津に恋愛感情を抱いていると思ってはいないだろうか。私もそのうちの一人であったが、意外なことに、麗子の胸のうちを明かす場面は長い連載中それほど多くは書かれていない。
コミックス25巻で見合い相手に気になる人がいると告白。その際、両津のことを『自分の思う通りに生きていていつも明るく人生を楽しめる人』と話していた。31巻では当の両津に向かい、結婚しそびれたら『両ちゃんのところにでもいこうかしら』と冗談めかしている。126巻、「擬宝珠纏(ぎぼしまとい)」の妊娠騒ぎではその相手が両津だと思い込み、複雑な表情を見せた。
一方の両津はといえば、想いに気づくどころかずいぶんとぞんざいに麗子を扱っている。手を上げる、髪をひっぱるなどは当たり前で、麗子をだしに金儲けをたくらむこともしばしば。写真集やフィギュアや分冊百科を作成して売りさばいたり、客を取ってマッサージ(健全なマッサージである。念のため)させては上前をはねたりしている。麗子の父が開催した「婿取り選手権」には賞金目当てで参加するという金の亡者ぶり。自ら作った等身大麗子ドールにより改めて彼女の魅力に気づくというエピソードがあるものの、表面上、両津にとって麗子は金のなる木にすぎないようだ。
それでも麗子は両津を想っている、と読者は感じている。これは多くの男性が持つ“美女と野獣”願望が投影された結果なのかもしれない。突然現れた美(少)女が愚にもつかぬ主人公を愛する、漫画では使い古されたシチュエーションだが鉄板であることは否めない。男性側に都合のいい側面があるからこそ、麗子はスーパーレディーでいられるのであろう。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)