writer : techinsight

【3分でわかる】中川圭一 ~最高級有機栽培パセリ~

 実写ドラマ化がなぜか放送開始前から話題となっている“こち亀”こと「こちら葛飾区亀有公園前派出所」。金に汚く正義感の薄い警察官「両津勘吉」が巻き起こす騒動を30年以上に渡り描き続けている、長寿連載漫画である。

 この作品では連載を重ねるにつれに登場人物が増え、もはや一度読んだだけでは把握しきれないほどの人数となっている。そんな中、重要なサブキャラクターとして誰もが思い浮かべるのが両津の部下である「中川圭一」であろう。

 中川は戦前から続く財閥の家に生まれ、父が持つニューヨーク郊外の別荘で16歳まで過ごした。ありとあらゆる英才教育を施され、ハイスクール教科は7歳の時に終了。日本の大学に入学した後もその才能とルックスのため周囲から一目置かれ、卒業後はカーレーサー、ファッションモデル、デザイナーと3足のわらじを履きこなす。それが突如いち警察官となり、両津が勤務する亀有公園前派出所に現れたのだ。

 警察官になった理由は『拳銃を自由にうてるから』。両津の暴走を止める役回りが多い中川にしては過激な発言であるが、それもそのはず、連載開始当初の中川は、なかなかどうしてやんちゃであった。

 映画「ダーティーハリー」のおもしろさを両津に伝えるため、熱弁をふるいつつうっかり発砲したり、手に負えない酔っ払いを拳銃で撃ったりするなど、両津顔負けのアナーキーさ。今の中川からは考えられないが、金持ちであることを鼻にかけているようなふしもあった。ただし自慢しているものが2万円のネクタイであったり、30万円の制服であったり、40万円の腕時計であったりと、比較的スケールが小さいのが微笑ましい。

 金と顔だけが自慢の、やや生意気だが憎めないお馬鹿キャラ。これが連載開始当初の中川である。ここから徐々に、世界有数の富豪でありながら金銭感覚以外ではそれなりの常識を兼ね備えた現在の姿に変貌を遂げるのだ。おかげで主人公である両津はおろか、次々と出てくる個性的なゲストキャラクターに押され、すっかり空気のような存在になってしまった。

 こち亀人気を支える一つの要素が両津を中心とした人情話であるが、中川に関してはそういったものはほとんど描かれていない。多忙な家族と久しぶりに対面するエピソードでは、富豪ゆえの幼少期の寂しさなどが語られるかと思いきや、集まってはすぐ散る“ドラゴンボール家族”という揶揄に終わる。この中川という男、少なくとも作品の上ではこれっぽちも深みがないのである。

 イケメンセレブでありながらモブキャラ同然の中川。なんの肉で作られているのかわからないハンバーグに、手間ひまかけた有機農法で栽培された最高級のパセリが添えられているようなものである。逆に言えば、こち亀は中川ほどのポテンシャルをもってしても主役級に入り込めないエネルギーに満ちた作品であるといえよう。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)