『USB』と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。電気回路のはしにつけて、他の回路と接続するためのターミナル―「端子」のくっついたUSBメモリー。パソコンなどにつないでデータをやりとりするあれだ。なぜか、そんな小さな“記憶装置”が題名になった、大人の悲しいファンタジー映画が出来上がった。奇才、奥秀太郎監督・脚本による最新作『USB』。主役を務めるのは自らもアナーキーな作風で映画を監督し、世界中から注目が集まる渡辺一志。決して善人ではなく、また悪人でもない男の無軌道な日々を追う。
USBは接続を意味し、親子や友情、またどうしようもない“社会”とのつながりや男女間のセックスをも表わす。
悲しいファンタジーと言ったが、よくよく見るとファンタジーさなど何も無い、主人公の生きる「辛い現実」が淡々とつづられている物語。ただ時折、末期のガン患者(野田秀樹)の欲する無菌ザクラや、放射能によって肥大化した植物、ボニー&クライドみたいな甲斐(峯田和伸)とあや(江本純子)のカップルの無軌道さが「非現実的」なだけだ。
朝から母親の焼く肉を食い、名医だった父親の後を継ぐために無理な医大を目指し5年も浪人中の“無気力”な主人公・祐一郎(渡辺一志)。過去に同級生のワル仲間・甲斐と博打で負けて、ヤクザの大橋(大杉漣)に800万円の借金をつくる。
数年前に原子力発電所の臨界事故があり、放射能汚染が進む町が物語の舞台。危険な「放射能治験」に、経済的に追い込まれた人々が群がる町だ。甲斐からその情報を聞いた祐一郎は、借金返済の金を稼ぐため自ら体を蝕むと分かっている“治験”に挑むのだが・・・・。
ふって沸いたキケンなアルバイトに何の迷いも無く飛びこむ主人公は、マザコンで友達にもやさしい。しかし予備校でドラッグの売人になったり、付き合っている彼女の真下恵子(小野まりえ)をゾンザイに扱ったりと、冷酷な一面も持つ。ぼそぼそとしゃべり、表情ひとつ変えない渡辺は、夢も希望も無い郊外の町にありがちな「無気力で無軌道な青年」を演じている。
近年自身も監督を務め、女優業以外にも若手クリエーターの育成など活動的な桃井かおりが、息子の“裏の顔を”知らない過保護な母として出演している。この母の期待と曇った町の空気が主人公の心を窮屈にしているのだ。祐一郎のいとこである人当りの良い医師の信一(大森南朋)の存在が、町のどうしようもない事情と「人体への害」が金になる様を見せている。
このような暗く、不快感の強い映画は見るものを選ぶが、“ある種の圧力により”都合の悪い事実を薄められたニュースが流れる現実の世界よりも事実を見せているかもしれない。
この手の映画にお馴染みとなった銀杏BOYZの峯田和伸が、ポツドール『愛の渦』でも衝撃的な演技を見せた「毛皮族」の看板女優・江本純子と海外のロードームービーのような不思議な味を出す。すぐ人を殺し、騙し、海外に逃げようとする愚かな男女ながらどこか愛嬌を覚える甲斐とあや。祐一郎もなかなか二人を断ち切れない。
印象的なのが、狭いカラオケで祐一郎に抱かれ、妊娠し、無視され続けても、予備校のビデオの授業を更にビデオに撮る事をまかされている恵子。冷たく汚れた祐一郎とは反対に一途な女として描かれている。そんな恵子を、ヌードも辞さない小野が清らかに演じている。
『USB』
6月6日(土)より、シネマライズほか全国順次ロードショー
監督・脚本:奥秀太郎 出演:渡辺一志 桃井かおり 峯田和伸(銀杏BOYZ) 他
配給:NEGA
6月13日(土)に奥 秀太郎監督、出演者による舞台挨拶第二弾決定!
詳しくは『USB』公式サイトへ
(TechinsightJapan編集部 クリスタルたまき)