単館上映ながら、大ヒット?を記録している松山ケンイチ主演『ウルトラミラクルラブストーリー』。そろそろ松山ケンイチ目当てで見に行った人たちの感想が聞ける頃だ。この映画において、イケメンぶりを封印した松山ケンイチや、ありのままの“田舎”の姿に驚いた観客もいるだろう。でも、この映画はそこが狙い。若干31歳の女性監督横浜聡子と、24歳の松山ケンイチが仕掛けるこの映画の「重要なメッセージ」とは。
(C)2009「ウルトラミラクルラブストーリー」製作委員会
本作が長編初監督の横浜聡子と、主演の松山ケンイチは、共に映画の舞台である青森県出身。この二人による“新手の郷土愛”は十分に伝わる映画。冒頭から聞き取りにくい東北弁が飛び出し、パワフルな子どもたちやズケズケとホンネを言い合う田舎の人々が登場。これらは地方の人が一番隠したがる“田舎のみっともなさ”だが、それをわざとさらけ出す事によって、物語の本質を見せている。無名監督によるリスクの高い作品にあえて手を挙げたのだから、松山ケンイチは余程この作品にほれ込んでいるのだろう。
水木陽人(松山ケンイチ)は、いつもヘリコプターがガチャガチャ頭の中を飛んでいるような男の子。25歳になっても独り立ちできず、細々と農業を営む祖母(渡辺美佐子)を手伝っている。そこに東京から来た保育士の神泉町子(麻生久美子)が現れ、陽人はたちまち町子を「ヨメにもらう」事だけを考えて暮らす日々が始まる。陽人のメチャクチャなアプローチに辟易しながらも、どこか彼の純粋な人間性に惹かれる町子。だが、ある日陽人の”とんでもない行為”を目にしてしまう。
賛否両論はあるだろうが、メッセージにブレの無い作品ではある。
形の揃った野菜は見た目もキレイで使い勝手が良く、都会のスーパーでも流通しやすい。しかし、農薬をいっぱい浴び、化学の手が加えられた野菜は、味や香りがことごとく薄く美味しく無い。そしてそのような人間の都合に合わせた野菜をどんどん収穫する事によって、土地は痩せ、野菜の栄養は失われていく。
田舎とそこに住む人々の現状を、野菜と畑に置き換え、失われる大切なモノとは何であるかを強く訴えている。とても重厚で、決して若者の遊び感覚の強い映画では無い。商業べースな「農薬」に頭が汚染されている映画界への“殴り込み”のような作品である。
たとえば「まっすぐなキュウリ」のような人は人間として魅力的だろうか?
不ぞろいで見てくれは悪いが、やさしく濃い味のトマトのような青年・陽人。どこまでも可愛らしく純朴な姿が、町子の心をとらえていく。
(C)2009「ウルトラミラクルラブストーリー」製作委員会
評価がわかれる事を知っていて、いつもハードルの高い役に挑戦する松山ケンイチ。ハマリ役とは言えないドラマ『銭ゲバ』や、期待はずれの『デトロイト・メタルシティ』など演技よりもコスプレイヤーとしての話題性が強い。しかし、この作品ではのびのびと気持ち良さそうに主人公・陽人を演じている。どこまでも続く黄色い田んぼや、緑の森を駆け巡る松山。やっと自分のスケールに合った作品に出会えたようだ。
全体的に、田舎っぽく古臭いつくりを意識しているのに、100sによる主題歌や、オシャレなタイトルロゴ、人気若手女性写真家による「松ケンヨリ目のポスター」など、押さえる所はちゃんと流行を押さえている。そして、気になるラストの“アレ”は、お豆腐か何かで模造したものである事を願う。(ぜひ、劇場でお確かめを。)
『ウルトラミラクルラブストーリー』(HPリンク)は絶賛公開中。
監督・脚本 横浜聡子
出演 松山ケンイチ 麻生久美子
(C)2009「ウルトラミラクルラブストーリー」製作委員会
(TechinsightJapan編集部 クリスタルたまき)