(c) Lam Duc Hien, Photographer
すごい映画が出来た。欧米諸国・アジアと世界的評価の高いトラン・アン・ユン監督が、木村拓哉と、ハリウッドの人気スター、ジョシュ・ハートネットを起用し、そして韓国・日本でも絶大な人気を誇るイ・ビョンホンを圧倒的な悪役に挑戦させるという斬新さで見るものを驚かせた傑作『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』。アジアの町の片隅で繰り広げられる、叙情的なバイオレンスとレディオヘッドの切ない曲。3人の男たちの苦しみや痛みを飲み込むスクリーンの空気に、あなたは耐えられるか。
『青いパパイヤの香り』でカンヌ国際映画祭カメラドール(新人賞)を、『シクロ』でヴェネチア映画祭のグランプリを受賞したトラン・アン・ユン監督は、1962年生まれ。ベトナム出身だが12歳のときにベトナム戦争を逃れるため、両親と共にフランスに移住した。現在もパリ在住なので『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』はフランス映画である。
卓越した芸術感覚を持った者は、凡人が認める美では満足できない。人間の持つ五感の全てを奮い立たせるような美の中に喜びを求めるのである。たとえそれが、苦痛を伴うものであっても・・・・・。
主人公のアメリカ人、元刑事の探偵クライン(ジョシュ・ハートネット)は、自ら逮捕した猟奇殺人者の変態的嗜好に半ば傾倒している。そんな自分を責め、精神を蝕まれてしまう。刑事をやめ、人探しの仕事についたクラインはある男性から息子のシタオ(木村拓哉)という男性を探してくれと依頼された。
他人の痛みを吸い込む力をもつ美しく清らかなシタオ。やがて、心に深いキズを抱え、残忍な香港マフィアのボスとして生きるドンホ(イ・ビョンホン)の情婦リリ(トラン・ヌー・イェン・ケー)の苦しい禁断症状を溶き、やがて彼女の心をも奪っていく。
『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』という、題名のとおり肥沃な熱帯の緑や香港の町並みに雨が降り注ぎ、この映画の世界は全体的にしっとりとしている。そういえば、ユン監督の3作目の『夏至』でも、雨に濡れる色っぽいベトナムの色調が豊かな作品であった。
血で血を洗うような残虐なシーンや、奇怪なオブジェ、苦しむ登場人物のゆがんだ表情など映画全てを見るとアナーキーで恐ろしい作品に見えるが、そんな中にも独特で繊細な美しさの光る作品である。ジョシュ、木村、ビョンホンの驚くほど高い演技への意識や集中力を上手く生かし、強烈な印象を心に残す映像マジックを作り出した、トラン・アン・ユン監督に脱帽である。
『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』は
6月6日(土)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国ロードショー
(TechinsightJapan編集部 空野ひこうき)