writer : techinsight

3分でわかる「ガラスの仮面」 特別編

 少年漫画の三大要素が努力・友情・勝利とするならば、少女漫画は努力・友情・恋であろう。「ガラスの仮面」主人公の「北島マヤ」の努力については後編で言及したので、ここではその友情と恋について触れてみようと思う。

 マヤは人柄の良さから多くの友人に恵まれてきた。中にはマヤの才能をやっかんで嫌がらせをする人物もいるが、多くの場合は悔い改めることになる。マヤが所属する「劇団つきかげ」のメンバーである「水無月さやか」はマヤに嫌がらせこそしなかったものの、一度はその役を奪おうとした。しかしマヤの才能を認めたさやかは自らを恥じ、友情をはぐくんでいくことになる。

 マヤにとってもっとも大切な友人は、ずばりライバルである「姫川亜弓」だ。映画監督を父に、大女優を母に持つ演劇界のサラブレッドであり、劇団つきかげの宿敵ともいえる「劇団オンディーヌ」の看板女優でもある亜弓はいち早くマヤの才能に気づいた。生まれも育ちも違うマヤと亜弓は互いに憧れ、反発し、かつ負けまいと切磋琢磨するうちに、いつしかただのライバル以上の関係となっていく。

 マヤの女優生命が危うくなった時も亜弓だけはマヤを信じ、再び這い上がってくるのを待っていた。マヤと亜弓が競演した舞台「ふたりの王女」ではミスマッチと思える配役をうまくこなすために互いの生活を取り替えることまでした。「紅天女」の稽古の合間には取っ組み合いのけんかをし、それによりさらに友情が深まった。ライバル関係から発展する友情は少年漫画だけの専売特許ではないのだ。

 さて、恋。マヤの初めての恋の相手は劇団オンディーヌ所属の俳優、桜小路優。しかし演劇に打ち込む中学生だったマヤはあまりに幼すぎ、桜小路の深い愛情に気づけなかった。マヤの胸を占めているのは自分ではなく演劇だと知った桜小路はマヤの前から去っていく。数年後、マヤは大河ドラマで共演した青春スター「里美茂」と恋に落ちる。桜小路の時とは違い周囲に交際宣言をするまでになったが、スキャンダルで別離を余儀なくされた。

 その後マヤは「速水真澄」に少しずつ惹かれていく。しかし速水はマヤの師匠である「月影千草」から紅天女の上演権を奪おうとしている敵であり、母を無残な死に至らしめた仇でもあるため、素直に胸に飛び込むことはできない。一方の速水は長らく“紫のバラの人”として、正体を明かさずにマヤを支えてきた。マヤの初舞台以来、そのひたむきさに惹かれた速水は一ファンとして応援してきたのだが、マヤの成長につれ女性として愛するようになっていく。しかしその思いを打ち明けることはせず、『紫の影として』一生マヤを見守り続けるとマヤの母の墓前に誓う。

 紅天女の稽古のために“梅の谷”で過ごすマヤは、速水への思いを募らせていく。神秘的な谷での一瞬の邂逅により、確かに思いが通じ合ったのを感じるマヤと速水。しかし速水は東京へ戻ると父の決めた女性と婚約してしまった。速水への思いを断ち切ろうと稽古に打ち込むマヤに、相手役でもある桜小路の熱い視線が再び注がれる。

 ため息が出そうなほど美しく、せつないマヤと速水の恋。正直もう桜小路はいいだろうと思う部分もあるのだが、その存在がより一層、二人の恋を盛り上げている。苦しい恋は皮肉にもマヤの演技に深みを与え、紅天女への道をより確かなものにする――という展開も悪くはないが、どうかマヤの恋を実らせてあげてほしい。これは私のみならず女性ファンのすべての願いであろう。同時に、物語が無事大団円を迎えるまで作者である美内すずえ氏の自愛を祈る。

(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)