3か月歩き回ってもまるで人里には出ない焦りと、餓死寸前の体。こうした極限の状態では「愛犬を食する」ことすら思いついてしまうようだ。カナダでは今、瀕死のハイカーの下した決断が大きな波紋を広げている。
愛犬のジャーマン・シェパードを連れてカヌー・トレッキングに出かけるも、キャンプの最中に熊に襲われてカヌーを壊され、テントごと食料を奪われてしまったマルコ・ラヴォアさん(44)。彼はそこから先、愛犬とともにカナダ・オタワから500km以上も北に離れたマタガミ周辺の原野を、ノタウェー川を頼りに3か月もさまようはめになってしまった。
家族からの捜索願は単なる「行方不明」であり、情報が不足していたことも災いした。いくら歩き回っても人里に出ることはなく、リュックの中の食料が尽きて数日後、歩く体力を失った彼はふと愛犬の肉を食することを思いついてしまう。しかし“あの時、激しく吠えて熊を追い払ってくれたのはこの犬。自分ひとりだったらもはや生きてはいまい。命の恩人ともいえるこの犬を殺すことが許されるのか”とマルコさんは2~3日深く悩み苦しんだそうだ。しかし「それでも生きて家に帰りたい」と強く望んだ彼は、大きな石で愛犬を殴打した。
レスキュー隊がついに発見した時のマルコさんは、ひどい脱水症状に陥り体重は40kgも落ちていた。重症患者として病院に運ばれ、現在も治療が続けられている。サバイバル技術の指導者ケイレブ・マスグレイヴ氏は、今回の件についてこのように語っている。
「カナダのあのあたりには、食べられるような植物の実や木の芽はほとんどありません。もしもその決断を下さなければ、彼は確実に死に向かっていたはずです。無防備なスタイルで3か月も生き延びられたのは奇跡、彼はむしろ英雄ですよ。」
愛犬家からは非難の声が相次いでいる中で、動物と人間の関わりについて長く研究してきた動物学が専門のアンドレ・フランソワ・ブールボー氏も、マルコさんの決断を肯定的に捉え、『Toronto Sun』紙にこうコメントしている。
「生きるためにこの決断を下しただけです。私はこれで良かったと思いますよ。精神的にギリギリまで追い詰められた人間の究極の選択です。恥じることは何もありません。」
ただしこうしたトレッキングの専門家は、異口同音に「今回の件はあまりにもラッキーな例」と語る。家族にきちんと行き先や仲間の情報を伝えていない、単独で出かける、あるいは突然の天気や気温の激しい変化に対する危機感が薄く、服装の準備の甘いハイカーが目立つとのことである。
(TechinsightJapan編集部 Joy横手)