writer : techinsight

音楽中級者がつまずくポイント「音感」。音楽歴30年・来日20年のアメリカ人社長が日本人にモノ申す。

ピアノ、ギター、管楽器、ボーカル…音楽を始めてその魅力を知り、さらに上達したいと思う時、最初にぶち当たる壁は「音感」だという。演奏方法などは誰でも習得できるが、その先の、例えば曲を聴いて音をとり演奏する「耳コピ」などができずに苦戦するのだ。なかには「音感は生まれ持った才能」と決めつけ、上達を諦めてしまう人もいるらしい。

そんな悩める音楽中級者たちに物申したい!という来日20年になるアメリカ人社長に出会った。有限会社シータ・ミュージック・テクノロジーズのスティーブ・マイヤーズ代表取締役だ。「日本人は細かい音の識別が得意。だからこそ、もっと音感を鍛えられる!」と断言するマイヤーズ氏。いったいどのような方法があるのか。

スティーブ・マイヤーズ氏はアメリカ・テキサス州生まれの43歳。現地の大学を卒業後すぐ、JETプログラムにより来日。日本の中学、高校で英語を教えるかたわら、自身も日本で勉強した。来日後に日本語の勉強を始めたため、当初は日常のコミュニケーションに苦労したという。

JETプログラムの終わる3年後にはすっかり日本の魅力にハマったマイヤーズ氏は、日本で暮らすことを決意。コンピュータープログラムを扱う会社に就職する。その後アメリカの大学院に進学し、コンピューターサイエンスを学んだ後、再来日。自身の会社を立ち上げた。

マイヤーズ氏自身、11歳からギターを弾きはじめ、現在もMoonshotsというバンドを組んで各地でライブを行うなど音楽活動を行っている。30年以上の音楽歴を誇るマイヤーズ氏だが、初心者を脱したかなと自覚する頃、最初にぶち当たった壁が、やはり「音感」だったという。曲を耳コピ(=聴いた曲をそのまま再現して演奏すること)しようとしたが、そもそもどうやって音を起こしていったら良いのかも分からず苦戦したそうだ。

とは言え、全ての楽譜をいちいち記憶するのも大変だ。困ったマイヤーズ氏は、たまたま目にした広告に掲載されていた「イヤートレーニング」セットを購入。50巻にもおよぶテープをひたすら聞きまくり、何とか耳コピができるようになったという。ただしその内容はひたすら退屈な訓練を繰り返すもので、普通の人なら早々と挫折してしまうような内容であった。

「音感が大切だということはミュージシャンなら皆、分かっているはず。だけど、その音感を鍛える方法を皆、分かっていない」と感じたスティーブ氏。自身のプログラミングを学んだ経験も活かし、有限会社シータ・ミュージック・テクノロジーズを立ち上げ、ゲームで楽しく音感を鍛えられる「シータ・ミュージック・トレーナー」(http://trainer.thetamusic.com/ja)を開発した。

「シータ・ミュージック・トレーナー」には15のゲームが備わっていて、楽しみながら音感を鍛えたり、音楽理論の学習ができるようになっている。

なかでも記者の目を引いたのは、「スピード・ピッチ」というゲームだ。これは、2つの音の高低をすばやく認識するスピードチャレンジで、楽器の音に惑わされずに音調だけを聞き分けるトレーニングが手軽にできる。また、「ダンゴ・ブラザーズ」はチューニングが狂っている音から正しく音を合わせるゲームだ。様々な楽器でチューニングを行うための微妙な周波数を聞き分ける音感を養うことができる。さらに、「ナンバー・ブラスター」というゲームでは、シューティングゲームを通じて音楽理論を学習する際に使用される数字を目と耳で覚え、遊びながら体得できるようになっている。

各ゲームともレベルが20段階に設定されており、合計300ものレベルで自身の音楽力を確認できる。また、初心者のために時間無制限の練習モードが全てのゲームについているほか、最上級レベルをクリアした人向けのマスターレベルも用意されている。1日15分・30回コースも設けられているので、着実にステップアップできる。

スティーブ氏によると、トレーナーの開発には、自身の30年にわたるプログラミングと音楽の経験のすべてをつぎこんだという。オーディオファイルをいかに軽くして簡単にダウンロードできるようにするかといった技術面に加え、レベルをどのくらいに設定するかなど、自身の経験に加えて、日本人を含む15人以上の世界中の音楽教育専門家による知恵を結集し、試行錯誤を繰り返したそうだ。

「シータ・ミュージック・トレーナー」は日本語版に加え英語版、さらに今年からはスペイン語版もリリースされ、世界中の音楽ファンやピアノ教室などに多数愛用されているほか、来期からは東京と横浜のインターナショナルスクールでの導入も決定している。

「私も数々のミュージシャンとセッションを行ってきましたが、日本人ミュージシャンのレベルは全体的に高いため、日本人とのセッションを通していつも学ばせていただいています。日本人は細かい音のニュアンスに気付くのが得意だと感じます。世界的に見ても、日本人は平均的に音感がいいというのが各国の共通認識です。ベースがしっかり出来ているんですね。だからこそ、音感はもっと鍛えられるはず!」と話すスティーブ氏。日本に長年暮らし、今なお現役で音楽活動を続けるからこその、説得力のあるメッセージだ。
(TechinsightJapan編集部 鈴木亮介)