writer : techinsight

孤独死を街づくりで防げ。セコム&新築分譲住宅&老人ホームが三位一体で「Vターンのできる街」を提案。

昨今、独居老人の孤独死が急増している。東京23区では高齢者の孤独死がここ十年で倍増しており、昨年は2千人を超えた。身近に親族のいない高齢者にとっては地域住民同士のつながりが欠かせないが、集合住宅などの場合、地域紐帯が希薄で「隣にどんな人が住んでるのか知らない」というケースも珍しくない。

核家族というスタイルが主流になった団塊の世代が定年退職を迎え、孤独死への対策が急務となっている。そうした中で今、不動産の現場からの孤独死撲滅に向けた取り組みが注目を集めている。

内閣府は今年4月、全国の60歳以上の男女5千人を対象に「高齢者の地域におけるライフスタイルに関する調査」を行った。それによると、孤独死を身近に感じる人は42.9%にのぼり、中でも単身世帯はおよそ3分の2にあたる64.7%が身近に感じると回答した。また、地方の農村に比べ大都市で高い傾向にあることがわかった。

孤独死を防ぐためには、日頃からの親族や近隣住民による声かけが欠かせない。前出の調査でも、地域で困っている高齢者への手助け方法として、安否確認の声かけや話し相手、具合が悪くなった時の支援などが必要と考えている人が多いことが明らかになっている。

こうした需要がある一方で、実際に「つながり」を実践できている地域・住民は決して多くない。調査でも実際には手助けできていない・しようと思わないという回答が最も多い。これは戦後進んだ核家族化により、血縁関係や近所づきあいなどより個人や親子など「家の中」を優先させる考え方が広まったことに起因する。「つながり」の重要性を認識しつつ、一方でそこに難しさや煩わしささえ感じているのだ。

こうした状況に一筋の光明を与えるのが、不動産の現場での取り組みだ。セコムグループの株式会社アライブメディケアと三井不動産レジデンシャル株式会社は先月、世田谷区中町三丁目にて一体開発中のアライブメディケアの老人ホーム「アライブ世田谷中町」と新築分譲マンション「パークホームズ等々力レジデンススクエア」および新築分譲戸建「ファインコート等々力レジデンススクエア」が、総合的な業務提携を行うと発表した。

これは「Vターンのできる街づくり」を目指して分譲住宅と老人ホームを隣接させ一体化するもので、マンションと老人ホームが隣接することにより、お互いにいつでも顔を見ることができ、双方にとって安心できる環境が実現する。

孤独死の防止はもちろんのこと、核家族化の進行により希薄になりつつある異世代の交流、とりわけ祖父母と孫の交流を促進できるのだ。一方で介護はプロに一任する形となるため、家族の介護疲れやそれにより家族が疎遠になることを防げるといったメリットもある。

具体的には、「パークホームズ等々力レジデンススクエア」契約者の家族について老人ホーム「アライブ世田谷中町」への無料の体験入居を受け付けるほか、契約者に対して、「アライブ世田谷中町」が満室稼働している際には「アライブ世田谷中町」への優先入居権を付与する。

また、「アライブ世田谷中町」の庭のお手入れボランティアイベントを通した交流やイベントなどで相互交流を企画し、異世代の交流を深めていく。さらに、セコム株式会社とも提携し、高齢の一人暮らしになった人を定期的に訪問し、家事手伝いサービスをしながら状態の変化を見守るとともに、サポートをしていく。食事、掃除、通院付き添いなど介護保険外サービスの提供もあるという。

この「Vターンのできる街」は、環境に配慮した閑静な住宅街として知られる東京・世田谷区中町に立地。南垂れの丘に、南から戸建「ファインコート」、マンション「パークホームズ」、老人ホーム「アライブ」の配棟を計画している。建物外観の色合いを調整し、アースカラーを基調としてデザイン上の統一感を演出するとともに、環境配慮型の街づくりを目指している。

以前Techinsight Japanでは多摩ニュータウンの建て替えについて報じたが、一般的にマンションや団地などの集合住宅は三世代以上での同居が困難であり、大学進学や就職を機に子どもが家を出て、残った両親と離れて生活をするようになる。また、とりわけ男性については日中仕事に出ているため地域住民との交流が少なく、老後支え合うような「地域のつながり」を構築することが難しい。

しかし、「Vターンのできる街」のようにマンションと老人ホームが隣接していれば、家族と近いだけでなく、子どもにマンションを譲り自分たちが「アライブ」に入居するといったように、二世代、三世代と同じ所に居住することができる。同じ土地に根を下ろすことで、地域のつながりを強固にすることができるのだ。

尚、今回の2社は、2006年に「パークコート学芸大学デュアルプレイス」と「アライブ世田谷下馬」において業務提携を実施しており、住宅と老人ホームとの連携は今回で2回目となる。こうした「長期間、複数世代が居住し続けられる街づくり」が全国に広がることで、孤独死をはじめとした高齢化による諸問題の克服が期待される。
(TechinsightJapan編集部 鈴木亮介)